社会主義、共産主義、帝国主義、ナショナリズム、マルクス、レーニン、トロツキー、プロレタリア文学、日本近代史に関する書籍を松戸市のお客様よりお譲りいただきました


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中野重治

今回買取させていただいたものには社会主義、共産主義思想のタイトルがずらりと並んでおります。

この中にはトロツキーに関する著作がありますが、晩年にメキシコで暗殺されたソ連共産党政治局員であり、赤軍創設者でもあるロシアのレフ・トロツキーはメキシコの地において、シュルレアリスム宣言やナジャを書いたフランスのアンドレ・ブルトン、メキシコのフリーダ・カーロと邂逅しました。フリーダ・カーロがメキシコ政府にトロツキーの保護を訴え(28歳離れた二人は、カーロの妹の家で密会していたという話もあります)、トロツキーに感銘を受けたブルトンは共著を出し、フリーダ・カーロはブルトンの企画したフランスでのメキシコ展を支援したそうです。

詳しくはこの邂逅は山口昌男『知の即興空間』の中の「ものみなメキシコに向かう」という章に書かれてます。

私事になりますが、くまねこ堂の通勤中にメキシコの小説家フアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』という小説を読んでいるのですが、これが素晴らしすぎてむせび泣いております。(ただの汗かもしれません)

ブルトンはまだ生きており、トロツキー死後15年、フリーダ・カーロが亡くなった翌年の1955年に書かれた作品です。

小説はこうはじまります。

 コマラにやってきたのは、ペドロ・パラモとかいうおれの親父がここに住んでいると聞いたからだ。おふくろがそれを教えてくれた。おふくろが死んだらきっと会いに行くと約束して、そのしるしに両手を握りしめた。おふくろは息をひきとろうとしていた。だから何でも約束してやりたい気持ちだった。「きっと会いに行っておくれよ」とおふくろはおれにすがるように言った。「父さんはこういう名前だよ。おまえに会えばきっと喜ぶよ」するとおれは、ああそうするよ、と言うよりほかはなかった。そして、そのことばを何度も繰り返したので、おふくろの死んだ両手の中からやっとの思いで自分の手を引きはがしたあとでも、まだ同じことばをつぶやいているのだった。息をひきとる前に、こうも言った。

「ものをくださいなんて言うんじゃないよ。わたしたちのものをよこせとお言い。わたしに当然くれなきゃいけないものさえもらっちゃいないんだから・・・・・・人をこんなに放り出しておいてさ。いいかい、うんとつぐなってもらうんだよ」

「そうするよ、母さん」

だがその約束をはたす気はなかった。ほんのついこの頃、夢に胸をふくらませたり、勝手に想像にふけるようになって、急に変わったのだ。こうして、おふくろの夫であるあのペドロ・パラモという人間が、おれの期待となりそのまわりにひとつの世界が形づくられていった。コマラにやってきたのはそのためなのだ。

 シャボテン草のすえた臭いの染み込んだ八月の熱い風が吹く、暑さの真っ盛りだった。道は上りになったり下りになったりしていた。「行くか来るかで、上りになったり下りになったりするんだよ。行く人には上り坂、来る人には下り坂」

「下の方に見えるあの町はなんていうんだい?」

「コマラだよ、旦那」

「ほんとにあれがコマラかい?」

「そうさ、旦那」

「だけど、なんであんなにひっそりとしているんだ?」

「時の流れってやつだよ、旦那」

おれは、おふくろの追憶や溜め息の端々に顔をのぞかせる望郷の思いをとおして、コマラを見ているような気がした。おふくろはコマラを思いだし、そこに帰ろうと考えては、溜め息ばかりついて暮らした。だが二度とコマラには戻らなかった。いま、こうしておれがおふくろの代わりにやってきた。目の前に広がる光景を見たおふくろの目は、このおれの目だ。おふくろの目で、おれがまわりを見ているからだ。「ロス・コリモテスの峠を過ぎるとね、熟れたトウモロコシの色で黄ばんだ、とってもきれいな緑野があるんだよ、そこからコマラが見える、緑の中に白っぽく映え、夜になるとぼうっと輝いて見えるんだよ」そういうおふくろの声は、独り言をつぶやくようにひっそりとして、消え入るようだった・・・・・・。おれのおふくろ。

この小説は語りだす登場人物がコロコロと変わり、時間もあっちこっちに飛び、死者すらも語りだし、あらゆる意味で因果律を飛び越えた作品なのですが、メキシコという地(地理的に北アメリカでもありラテンアメリカでもある両義性、アステカ文明以降スペイン、アメリカ、フランスからの侵略による文化、人種の混交による混血文化)は、因果や論理を越えてあらゆるものを飲み込む素地がそもそもあるのかもしれません。前述した三人がメキシコの地で邂逅したのは文化的、地理的要因に寄るものも大きく、おそらく偶然ではありません。

(サッカー日本代表の本田圭佑選手がメキシコのパチューカに移籍するニュースが先日報道されましたが、やっぱりメキシコかぁ!と関係妄想のように嬉しく思ってしまいました!)

小説の舞台コマラという集落は、読んでいるとじんわりと汗をかいてしまうようなもの憂く暑い描写に溢れています。今まで、二回途中まで読んで止まっていたのですが、不思議と今年の夏のはじめに読みはじめたらページをめくる手が止まりません。

もしかしたら暑さや蝉の鳴き声により意識も混濁するような夏にだけ、あるいはお盆を迎え、死者たちとの、異界との距離が一番ちかくなる夏にだけ読める本があるのかもしれません。

毎年夏には特別な一冊を探してうろうろと本の中のジャングルを探索するのですが、今年の夏の特別な一冊をくまねこ堂からみなさまにお届けできたら何より幸いです。

 タテ


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