東京古書組合よりエッセイ『生き残る古本屋考』のパンフレットが届きました。
皆様は『ガルリ・カスパロフ』という人物をご存知でしょうか?
カスパロフ……本名ガルリ・キーモヴィチ・カスパロフはアゼルバイジャン出身のチェスプレイヤーです。彼はめっぽう強いプレイヤーで、長い間チェスの世界チャンピオンのタイトルを保持していましたが、1997年にチェス専用コンピューター『ディープブルー』に僅差で敗北した結果チェスの歴史上で最も有名な敗北者となりました。
「コンピュータが世界王者のカスパロフに勝利した」。
このセンセーショナルな出来事は、来るべき機械化時代の不安を暗示するエピソードとして今なお語り草となっております。
なんでいきなりカスパロフの話なんか?と言いますと。
先日、東京都古書籍商業協同組合より会報が届きまして、そこに同封されていたパンフレットにこんな記事が掲載されていたからです。
『シリーズエッセイ 生き残る古本屋考 第一回 平成の古本屋外観』
内容はと言いますと、昭和の古書店の回想から始まり、ブックオフの出現、それに伴うアマチュアせどり屋の流行、古本屋の今後の行方……と、古書の業界で働く人間にとっては第一回から胃がキリキリするような題材で、思わず新時代の波に淘汰されたカスパロフを思い出したわけです。
で、エッセイの中で特に印象的なのが『ブックオフショック』という見出し。
1990年に1号店が生まれて以来の急成長ぶりは目を見張るものだったようで、従来の薄暗く愛想の悪い昔ながら古本屋とは正反対の『明るい接客・清潔な店舗の古本屋』の登場はショックと呼ぶに相応しく多くの古本屋が淘汰されてしまったようです。ブックオフは古すぎる本は売らずに処分してしまうシステムですから、数多の稀覯本が古紙回収に回されてしまったことは想像に難くありませんが、その点については『従来の古本屋に古本を売る場所としての魅力が無かった為でもある』と辛口な評価が書かれています。
前門にはブックオフ、後門にはAmazon、両脇にはせどらーの山。
あげくの果てに大量進出したブックオフすら経営が悪化する始末。
ああ、古本屋なんてもはや時代遅れなんでしょうか!?
ここでいっぺん、カスパロフの話に戻りましょう。
以前、カスパロフがTEDというコミュニティで現在の活動をプレゼンしてました。コンピュータに歴史的敗北を喫したカスパロフは何をしてるかといいますと、なんとコンピュータチェスを研究してます。
『勝てないなら味方になれ』というギリシャの諺を信条に、コンピューターと人間で手を組んで人類のチェスを更なる次元に高めようとしているワケです。現在はコンピュータと人間のコンビ同士によるタッグマッチを企画するなど精力的に活動しています。
本屋の業界でも、現在は他業種と合体した店舗が結構目立ちますよね。
私がかつて住んでいた中央線沿いにもカフェやギャラリーとくっついている本屋や週一で音楽会をやってるレコード屋なんかがありました。他ならぬ当店店主もしばしば合体型の古本屋について話をしてくれます。
『カフェとくっついてる本屋とか、ちょっと考えはするよね~』
もしかしたらくまねこ堂だけにネコカフェの古本屋とかやったら思わぬ需要があるかも……とか考えたり。
単体では力が及ばずとも、何かと力を合わせることで立ち向かえるかもしれない。Amazonに本を出品している本屋も、同じことを考えた結果の経営形態でしょう。
あらゆる可能性がある本屋の形態。
そこでふと考えるわけです。
いま、店舗型の古本屋の魅力っていったい何なんでしょうね?
本を安く買える? 高く売れる? いろんな本が置いてある?
1997年、ディープブルーに敗北した時にカスパロフはこう感じたそうです。
『人類がコンピュータに敗北してもなお、チェス界は人間のチャンピオンを求めている』。
もしかしたら、古本屋も同じなんじゃないかなぁと考えるわけです。
多くの情報がインターネットで調べられる時代に、
ブックオフでいらない本を手軽に売れる時代に、
Amazonで家にいながら本が買える時代に、
今もなお駅前の小さな本屋をうろついてしまうのは、
『人が本を売っている”本屋”という空間』、そして『本棚にささった本を手に取ること』そのものにワクワクを感じているからかもしれません。
本や本に書かれた情報だけではなく、『本屋』という空間そのものを提供することが、本屋の生存戦略にひとつ関係あるんじゃなかろうか……と古書業界の末端構成員として考えたりするわけですね。
プレゼンの最後、カスパロフはこう言っています。
『人間にしかできないことが1つあります それは夢を見ることです だから大きな夢を見ましょう』。
Amazonではなかなか売ってないんですよねぇ、夢って……。
フジタン
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