日本女子大学創設者の成瀬仁蔵の著作集が入荷しました!~社会の中の教育

 新型コロナウイルスの感染拡大に対する懸念が日に日に高まっています。NHKは本日4月6日、日本で同ウイルスの感染が確認されたのは、3874人に上ると報じました。首都圏の小中高校では授業再開とのことですが、これまでどおりの「三密」環境のままでは、学校が感染を促進しかねません。

※国内感染者3874人(クルーズ船除く)新型コロナウイルス(NHK NEWS WEB、2020年4月6日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200406/k10012370151000.html

 これまでそうやってきたのだから、今さら変えようがない、という考え方こそ変える必要があります。とくに教育のあり方をめぐる議論は、教育それ自体の枠の中でというよりも、大きな社会情勢の変化との関係で前進してきた歴史があります。今回紹介したい本は、新たに入荷しました、国内外の激変の中で教育の振興を模索したある人物の著作集です。

 その本とは、日本女子大学創立七十周年記念出版分科会・成瀬仁蔵著作集委員会編『成瀬仁蔵著作集』(日本女子大学、1981年)です。そのうち、1912年から1919年の著作をカバーしている第3巻を取り上げます。

成瀬仁蔵

 成瀬仁蔵(1858-1919)とは、日本女子大学の前身の日本女子大学校の創設者として知られています。1890年代にアメリカで教育学やキリスト教を学んだ成瀬は、帰国後の1901年に日本女子大学校を創設しました。

 そうした日本における女性教育事業の第一人者ともいえる成瀬は、教育を国内社会全体および国際情勢との関わりから考える人物でした。そうした姿勢は、1914年に勃発し、当初の予想に反して大規模化・長期化した第一次世界大戦(1914-1918年)の問題に取り組んだ著作集第3巻に見出せます。

 成瀬は1918年9月のパンフレット「女子教育改善意見」で、第一次世界大戦中のある変化と戦後への影響に着目しています。ヨーロッパでの第一次世界大戦は、戦いながら兵士と武器を供給し続ける、という近代国家間の熾烈な戦争となりました。この戦争がとりわけ熾烈だというのは、それまでの戦争が、事前に訓練された兵隊が事前に備蓄していた兵器で戦うというものだったからです。第一次世界大戦の勝敗は、国内の暮らしと離れた国境付近の攻防だけでつくものではなかったのです。この戦争は国民の生活を大きく変えていく第一歩となりました。たとえば、各国政府は男性労働者を徴兵し、彼らが抜けた穴を女性労働者で埋めようとしました。労働市場への女性の参入が、戦争継続のために促進されることになったのです。

 しかも、この趨勢は戦争が終わっても変わることはありませんでした。戦争の人的・物的被害が空前絶後であったために、女性を再び家庭に帰すようなことは、客観的に見れば非現実的でした。もし戦前の状態に復帰しようというのであれば、歴史的な構造変化に逆行する間違った政策や事業を進めていくことになってしまいます。

 このように、ヨーロッパでは第一次世界大戦の影響で女性の社会進出が大きく進みました。これを受けて、教育者としての成瀬は、日本でも女子教育をより発展させていかなくてはならないと考えました。そうでなければ「世界の大勢」に適応できなってしまうと恐れたのです。成瀬は「女子高等教育の発達は社会各方面の要求であり、又文明必然の趨勢である」と喝破しました。教育をめぐる議論が、大きな社会情勢の変化との関係で前進してきたと冒頭で述べたのは、こうした成瀬の考え方が、歴史的に見ても重要だったからです。

 それでは、教育の将来を社会的変化の中で考える成瀬の姿は、今日の新型コロナウイルスへの対応を迫られている私たちに何を問いかけているのでしょうか。

 なお、あわせて考えるべきなのが、帝政ロシアが1917年の社会主義革命によって崩壊し、ソヴィエト政権に取って代わられたことです。日本はこの革命に干渉するためにシベリアに軍隊を派遣しました(シベリア出兵)。まるで、当時の日本政府は、歴史的な変化を直視することを拒み、意地になっているようではありませんか。

 この問題に関する本で、くまねこ堂で出品しているのは、小林幸男『日ソ政治外交史―ロシア革命と治安維持法―』(有斐閣、1985年)(https://amzn.to/39IIEzv)と細谷千博『両大戦間の日本外交―1914‐1945』(岩波オンデマンドブックス、2012年)(https://amzn.to/2RhrIdb)です。ご購入をご検討くださると幸甚です。

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小野坂


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