買取り品紹介:オ―ドリィ・コパード、バーナード・クリック編『思い出のオーウェル』(晶文社アルヒーフ、1986年)が入荷しました!~制度が引き起こす社会問題とは?
本日9日のCNN日本語版で、ローマ教皇フランシスコは8日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について、環境危機を無視し続ける人類に対する「大自然の反応」の1つとして警鐘を鳴らしたとのニュースが報じられました。さらにフランシスコ教皇は、米ラスベガスでホームレスが駐車場に隔離されている件について、「ホテルが空いているのに、ホームレスがホテルに行くことはできない」と批判し、「今こそ貧困に目を向けるべき時だ」と述べたとのことです。
※ローマ教皇、新型コロナウイルスは「環境危機に対する大自然の反応」(CNN.co.jp、2020年4月9日)
https://www.cnn.co.jp/world/35152106.html
このように、社会問題を制度面の現実から考えていくことは、極端な現状変革論や冷笑的な現状肯定に陥らないためにも、大変重要なことです。ローマ教皇を最高位の聖職者とするカトリック教会の社会問題への関心は、1891年のレオ13世による回勅「レールム・ノヴァルム」(自由放任の資本主義と急進的な革命を求める社会主義との間に立って、階級協調を説いた)以来の伝統です。
そこで、今回は「社会問題を制度面の現実から考えていくこと」について、全体主義的ディストピアの世界を描いた『1984年』の作者で知られる、ジョージ・オーウェルの足跡に沿って見ていきたいと思います。というのも、とある国文学研究者の方のご遺族よりお譲りいただいた書籍の中に、オ―ドリィ・コパード、バーナード・クリック編『思い出のオーウェル』(晶文社アルヒーフ、1986年)があったからです。オーウェルの作品自体は人気ですが、上記書籍は、オーウェルの人となりやその作品の背景を知るのに有益なインタビューを収めた興味深いものとなっています。
とりわけ、オーウェルがルポルタージュ作品に取り組むにあたってどのような姿勢を貫いたのか、そしてそれはどのように評価されているのかを知るのに、この本を避けては通れません。たとえば、『ウィガン波止場への道』は、オーウェルが1936年にイングランド北部の炭鉱の町で目撃した、労働者の人々の暮らしぶりを描いたものです。これについて、必見のインタビューが収録されています。
滞在中のオーウェルは、うわさ通りの斜に構えた感じの悪い人間であったと、炭鉱労働者のジョー・ケナンは証言しています。しかし、ケナンは次のようにも話しています。
「彼が失業保険の受給資格審査や変則事態法のことを描いてくれたお陰で、ウィガンや、その他数多くの地方でも同じだろうが、実に大勢の人間が何かをしなければならないとつくづく感じ取ったんだ。」
さらに彼は、『ウィガン波止場への道』は「1936年の工業地帯の様子をはっきりと描いている」いい本で、「あのころの状況を誇張したようなところはまったくないと思う」と評しています。この作品に、社会問題を制度面の現実から考えていくためのヒントを求められるのではないか、と考えたのは、こうした炭鉱夫の証言に接したからです。
日本でも新型コロナウイルスの感染拡大に対する懸念が高まる一方です。不安を払拭することは難しいですが、現実から目を背けたり、漠然と考えているだけでは不安は不安のままです。政府の感染症対策の法的根拠は何か、その制度が私たちの暮らしの何を見ていないのか、具体的な問題を恐れ、それに対処する方法を個々人で考える必要があります。オーウェルの偏屈さについては賛否両論はあると思いますが、政治的な立場に沿って答えを決めるのではなく、法的な実態をふまえて社会問題に切り込んでいく作風には、学ぶべきところがあるはずです。
なお、1930年代半ばのスペイン内戦についての作品、『カタロニア賛歌』鈴木隆・山内明(現代思潮社、1966年)(https://amzn.to/2VhaH3J)を現在出品中です。これを機にご購入検討くださると幸いです。
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