昭和戦中期の新聞を読み解くための書籍を紹介します
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出張買取では、ご依頼くださったお客様のお宅などにおうかがいすることもあり、書籍や雑誌のような刊行物以外の文献にも接することがあります。また日刊の新聞は定期刊行物とはいえ、昭和戦前・戦中のものということになると、買取のご機会でなければあまり目にすることはありません(どうしても、ということになると、国立国会図書館所蔵のマイクロフィルムないし各新聞社有料データベースの閲覧という手段もありますが)。
今回、紹介するのは、以下の新聞です。わざわざ取り上げるいっても、センセーショナルなタブロイド紙のどぎつい紙面を見せたい、というわけではありません。当時も今も大手として有名な新聞です。一定の品位は期待されるところです。
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「帝国・米英に宣戦を布告す」(朝日新聞、1941年12月9日)、「英極東艦隊主力全滅す」(あ朝日新聞、1941年12月11日)、「万歳・シンガポール陥落」(読売新聞、1942年12月17日)、「赫々=ソロモン海戦の綜合戦果」(中外商業新報、1942年8月15日)…と、各社足並みをそろえてお祭り騒ぎです。なお、中外商業新報とは現在の日本経済新聞です。
このように1941年12月8日以降の対英米戦争を報じた新聞の一面見出しを取り出してみました。この情景には、私たちが現在のマスメディアに対して感じる、あの疑問を解く手がかりがありそうだ、と感じました。
あの疑問、というのは、新聞各社の報道あるいは各テレビ局のニュース番組のどれを見渡しても、報道内容ほとんど同じであり、おまけに発表されるタイミングすらほぼ同時なのはなぜか、ということです。各社の違いに気づくのは、真夏のスポーツ欄で高校野球を熱心に取り上げるのが朝日新聞という一方で、負けじと読売新聞がプロ野球を大きく扱っているときぐらいなものです。
こうした報道の均質化はなぜ起きたのでしょうか。各社での記事執筆の工程や販売方法が「合理化」された結果、新聞記事はどの新聞社がつくっても同じ、という「最適解」に到達したのでしょうか。
とはいえ、新聞社が扱っている商品は、均質性が求められる家電やファストフードといったモノ(財)ではなく、情報のはずです。情報は何らかの違いを含んでいるからこそ、価値があるものです。例えば書籍一般について、定価とAmazonの価格との差額、とか著者サインの有無といった価格の違いを示す情報になります。研究書であれば、その本以前には書かれていなかった新たな見解が見どころになります。古典であれば、当時の人々が出した答えに対して、現代の私たちの問いをぶつけるように読むならばどうでしょうか。両者の間の時間の違いは大きな違い=価値を生むかもしれません。
したがって、新聞やテレビの報道内容の均質化は、情報の価値を生み出すという本来の目的とは異なる経緯によって生じたのだろう、と想像するのが自然です。それでは、各社での記事執筆の工程や販売方法が「合理化」された結果、というようなモノづくりの比喩は妥当なのでしょうか。
佐藤卓己『メディア社会――現代を読み解く視点』(岩波新書、2006年)86-87頁では、日中戦争(1937-45年)の時期に、政府主導で新聞社の整理統合が行われた経過について、簡潔な説明があります。この過程を直ちに、「言論弾圧だ!」と結論づける前に、同書に依拠して新聞社側の思惑についても確認しておきましょう。
「こうした整理統合が素早く実現した理由を、単に国家権力による強制と考えるべきではない。全国紙は効率的に部数を拡大できたし、その進出に圧迫された地方紙も、経営の効率化のために積極的に統合に取り組んだ」
そして、新聞用紙の欠乏と空襲による印刷輸送の困難を理由に1944年から、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の三紙の発行が、各県紙に委託されることになりました。すなわち新聞業界は、三系列の効率的な組織に再編されたということです。このことが、紙面の均質化につながったことはいうまでもないでしょう。しかも政府の整理統合政策に沿って推進されていたわけですから、政府の発表を鵜呑みにするいわゆる「大本営発表」は、当然の帰結に違いありません。
しかも、こうした戦時体制下で成立した新聞業界の体制は、敗戦後の占領体制にとっても効率的なものでした。それゆえに、新聞各社は財閥のように解体されず、「大本営発表」の責任も問われず、一貫して存続することができました。紙面の均質性は、こうして受け継がれました。
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