サイバネティックス創始者のノーバート・ウィーナーの自叙伝が入荷しました!

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 今回の投稿では、最近入荷した、情報科学や工学の分野にまたがる、ある書籍を紹介していきます。

ノーバート・ウィーナー『サイバネティクスはいかにして生まれたか』鎮目恭夫訳(みすず書房、1956年)

ノーバート・ウィーナー『サイバネティクスはいかにして生まれたか』鎮目恭夫訳(みすず書房、1956年)です。

 著者のノーバート・ウィーナー(1894-1964)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)数学科教授で、機械の通信と制御に関するサイバネティックスという分野の創始者として知られた人物です。本書は、サイバネティックスが生まれるにいたる回想を主とした、ウィーナーの自叙伝です。本書カバー袖には次のような紹介文があります。

「次々と試みられる海外旅行、登場する当代一流の学者のユーモアに富んだ逸話、〔ウィーナー〕博士の目に映ったインド・中国・メキシコ等の目新しい風俗と文化、米ソ二つの世界のそれぞれへの鋭い批判や風刺等が示されるが、逆にこれらを通して、彼の持つ劣等感――成長後まで残る父の影響、ユダヤ人であること――の心理的抑圧と烈しい自己主張とが錯綜して映し出され、人間ウィーナーの生まの姿が浮彫りされている」

 ウィーナーのサイバネティックスを正面から扱った著作とともに、そうした発想のきっかけとなった出来事を記した本書は併読されるべきものです。とくに興味深いのが、1930年代半ばの中国滞在時のエピソードです。

 サイバネティックスの特徴は、一方的な情報伝達と制御ではなく、機械が自らの作動によって生じた結果を、新たな情報として取り入れるところにあります。それによってあらかじめ定められた作動を、機械自身が変更する形での制御の方法をとることができます。実は、ウィーナーがこのような情報の循環による制御、という発想にたどり着いたことを示すエピソードは、清華大学に講師として招かれた中国滞在中のことなのです。このことについて、ウィーナーは本書第10章で次のように回想しています。

「われわれの〔電子回路の設計のための〕研究で欠けていたのは、出力の一部を新しい入力として過程の始点にフィード・バックする装置を設計する諸問題に対する十分な理解であった。」

 ウィーナーがこの点を自覚したのは、必ずしも数学や情報工学に内在するきっかけではなかったのかもしれません。彼がフィードバック装置の必要性を実感した舞台は、ほかでもない中国であったことに留意しつつ読み進めていくと、以下の記述が目に留まるはずです。

 「悪に至る道は幾つもある。しかしまた有徳の生活が発生しうる源もたくさんあるのだ。孔子的性格というものは有徳の生活の非常に興味深くて魅力ある源であり、感受性のある聡明な宣教師なら、ほとんどみな中国から帰る時にはもう孔子の見解を深く理解し、それに共感せずにはいられない。中国は中国を改宗させようとするものを改宗させる。」

 中国の清華大学に招かれたアメリカの数学者であるウィーナーは、中国人に対して講義をしながら、後に新たな研究分野を創始するきっかけを中国人との交流の中で得たのでした。「中国は中国を改宗させようとするものを改宗させる」とは故事成語のようですが、ウィーナーの実感であったというべきでしょう。

 私たちは、ある出来事を評価する際に、所期の目的を果たすためにどれほど計画が精緻であり、それがどの程度実行されたのか、という計画→実行→成果というような単線的な形で考えがちです。こうしたものの考え方は、受験勉強のように答えが決まっていて、制限時間というルールがあり、しかも過去の傾向から対策を立てることが可能な分野では有効かもしれません。けれども、状況が目まぐるしく変わる中である問題への対処を迫られたとしたら、どうでしょうか。その状況の変化は、自分の行為によってもたらされるということもあり得ます。そんなときは「出力の一部を新しい入力として過程の始点にフィード・バックする」とは、何をすることなのか立ち止まって考えてみることが、それまでの仕方でやみくもに努力するよりもずっとましな結果につながるかもしれません。

 くまねこ堂では、現在入手が難しい研究書など、積極的に扱っております。ご自宅の整理などでお困りのお客さまにおかれましても、是非くまねこ堂までお申しつけ下さいませ。

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小野坂


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