ハンナ・アーレントとカール・ヤスパース両者の著作が入荷しました~『全体主義の起源』序文について
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最近、くまねこ堂では、ドイツのナチズムをはじめとする全体主義に関する書籍が入荷されています。そういえば少し前の講談社のオンライン雑誌クーリエ・ジャポンで、アメリカの国会議事堂襲撃事件(1月6日)を起こした暴徒と反ユダヤ主義との関連を指摘した記事が掲載されています。同記事は、「1930年代になると反ユダヤ主義が急激に広が」った時点から切り出し、先のトランプ政権にいたるまでの、アメリカにおける主な反ユダヤ主義暴動の歴史を振り返っています。反ユダヤ主義といえば、ついナチ・ドイツ、その政治指導者のヒトラーと結び付けてしまいがちです。しかしながら、そのドイツとの戦争に勝利した上で同国を裁いたアメリカにも反ユダヤ主義が蔓延していたこと、そして現在でも深刻な問題であることを、同記事によって改めて想起させられます。
※専門家が警鐘「アメリカの反ユダヤ主義をみくびってはいけない」─議事堂襲撃が繰り返される可能性も(クーリエ・ジャポン、2021年1月29日、Yahooニュース転載)
https://news.yahoo.co.jp/articles/ae8a37be89db5fbf850ed9d5b93acb50c663967b?page=1
ナチ・ドイツに限られない、反ユダヤ主義の広まりや、それが全体主義の形成にどう関わってくるのか、という点については、あの古典がやはり参照されるべきでしょう。
上掲の画像は最近入荷しました、ハナ・アーレント『全体主義の起源1 反ユダヤ主義』大久保和郎訳(みずず書房、1972年)、カール・ヤスパース『精神病理学原論』(みすず書房、1971年)です。(アーレントの名前については、新装版でハナからハンナに変更されています。)
アーレントの『全体主義の起源1 反ユダヤ主義』にはヤスパースが序文を寄せています。「第一部と第二部では反ユダヤ主義と帝国主義が、全体主義にとってそれらが持っていた本質的な意味にもとづいて検討される」が、「おそらく第三部〔全体主義〕を最初に読むのがいいだろう。なぜなら結果がよくわかっていたほうが発生がよく理解されるからである」と専門家の間ではよく知られた「助言」があります。それゆえに、ナチズムおよびソ連のスターリニズムを正面から扱った、タイトルにして第三部の主題の「全体主義」に引きつけて読まれがちな三部作ですが、ヤスパースは同時にここで「すべての章が読者を捉えて放さぬ」と述べてもいます。たしかに、反ユダヤ主義と帝国主義の分析は読者にとってそれぞれハイライトが異なると思われるほど、興味深い見解が連発します。
たとえば、第二次世界大戦後のヨーロッパ経済再建における難民問題を扱った、タラ・ザーラ『失われた子どもたちーー第二次世界大戦後のヨーロッパの家族再建』三時眞貴子ほか訳(みすず書房、2019年)は、アーレントの国民国家体制の分析を発展させた研究といえます。アーレントが見逃さなかった、普遍的人権が国籍に縛られている点を重視したザーラは、国際的な難民支援活動が、各国家のナショナリズムに回収される局面を浮き彫りにしました。このような系譜があるほどですから、アーレントの『全体主義の起源』は、ナチズム研究としてだけでなく、またたんに歴史学としてだけでなく、様々な関心から読まれるべき著作ではないかと思われます。
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小野坂