1921年に刊行された医学書、土肥慶蔵『世界黴毒史』の復刻版が入荷しました

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。非常事態宣言が解除されましたが、むしろそれゆえに感染拡大に警戒せざるを得ない日々が続きます。

 目の前の感染拡大に対処するには、可能な限り感染の実態を検査によって把握する必要があります。その検査方法であるPCR検査は、テレビやネットなどでよく目にするようになりました。「クリニックフォア」という医療サイトによりますとPCR検査とは、「Polymerase Chain Reaction; 核酸増幅法 といい、増やしたい対象のDNA断片を検査装置の中で選択的に増幅させ、ウイルスに感染しているかを調べる検査」のことであり、その検査にあたっては体液、一般的には唾液を用いるとの説明があります。

※PCR検査について、クリニックフォアグループの医師が解説します。(クリニックフォアのウェブサイト)
https://www.clinicfor.life/articles/covid-005/

 新型コロナウイルスの感染拡大の原因として、無症状の感染者による感染拡大という問題が指摘されています。また、後遺症の問題など、いわゆる「風邪」とは違った危険性があることも、新型コロナウイルスの感染拡大が警戒される理由となっています。

 ところで、このPCR検査は、ある分野では以前から重要な検査方法でした。その分野とは、症状についてあまり知られていない、あるいは無症状の感染もある感染症です。しかもその感染症の予防には、定期的な検診が必要になります。かつ、できれば感染したことを誰にも知られたくない種の感染症です。どうも新型コロナウイルスの感染と似ていなくもないですが、性感染症のことです。恥ずかしいからといって、性感染症の罹患を隠蔽したり、その検査を避けたりすると、後で思わぬ事態を招く危険がありますから、心当たりがあろうとなかろうと気をつけたいところです。こういうところも、新型コロナウイルス感染を考える際のヒントになるのではないでしょうか?

 医療ジャーナリストの木原洋美氏の記事によれば、近年、厄介な感染症が続々発見されているとのことです。それらの特徴として、「(1)無症状であるものも多く、(2)自覚しない、(3)症状が軽く気が付かない、(4)自覚症状があっても正しい治療に結びつかない等の理由で、いつの間にか他の人に感染を広げてしまうことがあるという。また妊娠中の女性が感染すれば、(5)胎児や新生児への感染も懸念され、一度感染するとなかなか駆除されないまま体のなかに潜み続け、(6)免疫が低下すると症状が出てきたり、(7)エイズのように時間がたってから発症するケースも珍しくない」という点が挙げられています。

木原洋美「性病だけじゃない!『体の恥ずかしい部分』に異変が起きる6つの怖い病気」(ダイヤモンドオンライン、2020年11月27日)
https://diamond.jp/articles/-/255514

 コロナウイルスと聞けば、咳や痰といったようにただの「風邪」を想像しがちです。しかし、上記のような性感染症との共通点を手がかりに、新型コロナウイルスに対する認識を転換しなくてはならないのかもしれません。

 そこで、というには若干強引ですが、ちょうど100年前の日本で刊行されたある医学書の復刻版が、くまねこ堂に入荷しましたので、今回はそれを紹介したいと思います。

土肥慶蔵『世界黴毒史』

 土肥慶蔵『世界黴毒史』(形成社、1973年、初版は朝香屋書店、1921年)という性感染症の歴史に関する本です。著者の土肥慶蔵(1866-1931)は、東京大学皮膚科教授で、日本皮膚科学会を発足したことで知られています。「人類ノ生存」を賭けて性感染症の黴毒(ばいどく、現在では梅毒との表記が一般的)の予防を説き、そのために徹底的に歴史を紐解こうとした土肥の熱意が、本書の端々にうかがえます。

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小野坂


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