カート・ヴォネガット『スローターハウス5』(1969年)~従軍経験とタイムトラベル~第二次世界大戦とベトナム戦争
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くまねこ堂には、続々とSF文庫が入荷しています。今回はその関連で紹介したい作家がいます。
カート・ヴォネガット(1922-2007)は、アメリカの著名なSF作家です。1976年以前の作品は、カート・ヴォネガット・ジュニアの名で発表していました。
ヴォネガットの作品で有名なのが、『スローターハウス5』(1969年)です。本作品は、タイムトラベルの手法で物語を進めつつ、第二次世界大戦中の連合国によるドレスデン(ドイツ東部の都市)爆撃に収斂していく、というあらすじとなっています。単なるSF色の強い時代小説と思いきや、ヴォネガットには、米軍歩兵部隊の一兵卒として、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線に従軍しています。彼はドイツ軍の捕虜となり、ドレスデンにいたことがあります。まさにそのときに起きたのが、1945年2月のドレスデン爆撃だったのです。『スローターハウス5』でドレスデン爆撃が扱われているのは、ヴォネガットのそうした従軍経験の反映なのです。つまり、ヴォネガットは味方の爆撃に遭遇し、その惨状を目の当たりにしたことになります。
こうした第二次世界大戦中の戦略爆撃の被害や、友軍から爆撃されるという事態は、現在では歴史研究の進展によって、知る人ぞ知る史実となっているかもしれません。しかし、戦勝国の連合国による戦略爆撃における非人道的行為の実態を問うことは、終戦直後では困難だったはずです。『スローターハウス5』が発表されたのはベトナム戦争中の1969年であり、最初の邦訳は1973年でした。もしかすると、ベトナム戦争中の米軍による北ベトナムへの爆撃を、第二次世界大戦の記憶と重ね合わせるようにして、刊行当時の人びとはヴォネガットの作品を読んでいったのかもしれません。この文脈で興味深いのは、やはりヴォネガットが『スローターハウス5』でタイムトラベルと自身の従軍経験を交差させている点です。そのような作品が生まれ、ベストセラーになったのは、第二次世界大戦からベトナム戦争にかけての人々の記憶、戦争に対する様々な感情に訴えるところがあったからなのではないでしょうか。
今夏、ヴォネガットの半生、とくに『スローターハウス5』を発表し、ベストセラー作家になるまでの時期を扱ったドキュメンタリー映画が公開されます。戦争について、日本史以外の視点からも考えるきっかけをつかんでいきたいですね。
※カート・ヴォネガットのドキュメンタリー映画、2021年夏公開
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/34932
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小野坂