ナンシー・スノー『情報戦争――9・11以降のアメリカにおけるプロパガンダ』福間良明訳(岩波書店、2004年)~9・11から20年
いつもくまねこ堂ブログをご覧いただきありがとうございます。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件から、今年で20年が経過しました。アメリカ政府および(日本を含む)同盟国はこのテロ事件をきっかけとして、同テロを実行した組織が潜んでいるとされたアフガニスタンに武力行使やそれを支援する派兵に乗り出しました。このアフガニスタン紛争は、今年8月末に米軍が撤退するという一応の結末を迎えましたが、この急転に伴う様々な困難や悲劇が報じられています。
アフガニスタン紛争がなぜ始まったのか、そして現在アフガニスタンでは何が起きているのか、という点が、紛争勃発から20年目にして問われています。それのみならず、20年間何をしてきたのか(してこなかったのか)という長期の視点で考えるならば、アメリカ軍および同盟軍の責任のみならず、それを送り出した各国の世論のあり方も問われることになるでしょう。
そこで、最近入荷した興味深い本を紹介します。
ナンシー・スノー『情報戦争――9・11以降のアメリカにおけるプロパガンダ』福間良明訳(岩波書店、2004年)です。著者のナンシー・スノーは米国文化情報局(USIA)や国務省で広報政策に従事していた経歴を有する国際関係論、コミュニケーション論の専門家です。他方、訳者の福間良明氏(現・立命館大学教授)は、日本のメディア史を牽引してきた研究者の一人です。福間氏の解説によれば、「本書で一貫して問題とされているのは、〔主としてアメリカ〕世論を『対テロ戦争』に導こうとするさまざまな動向である」とスノーの意図が端的に示されています。そこで具体的に問題とされているのが「理性・説明・歴史的な文脈をほとんど伴わない空疎なスローガン」なのです。
「空疎」だというのは、「テロとの戦い」や「民主主義」といった言葉が敵味方を峻別するために用いられ、とりわけ「敵」に対して極度の単純化を推し進めていく事態を指しているのでしょう。いったん、そのような「空疎なスローガン」で世論の不安をあおり、複雑な現実をないがしろにして「敵」を憎悪するようになると、歪んだ認識を拡大再生産していくことになります。しかも、事実を軽視しているがゆえに、歪んだ認識を軌道修正することは、その端緒をつかむことすら困難になります。何より事実に基づいて考えるべきなのが軍事・安全保障ではありますが、この分野こそスノーのいう「空疎なスローガン」が入り込みやすいことも、残念ながら歴史が教えるところです。
あわせて、昨今の情報技術の急速な発展が、これまでも存在した「空疎なスローガン」をますます速く、広く普及させてしまうことでしょう。そこで失われるのが、「モノを考える」という人間の条件の根幹、それもAI(人工知能)に対して人間の存在意義を示すことができる分野の能力だという警鐘が、各方面から発せられています。その中でも注目に値するのが、「マルクス主義ヒューマニズム」を提唱するポール・メイソン氏の近著です。
▲Paul Mason, Clear Bright Future: A Radical Defence of the Human Being, Penguin Random House UK, 2019.
軍事・安全保障は「空疎なスローガン」が入り込みやすいといいました。これは、AIをめぐる議論でも同様だという感触があります。これに加えて、軍事とAIとの結びつきが年々増していることを思うと、「空疎なスローガン」とどのように戦うべきか、批判と称して「空疎」さを裏返しただけの別の「空疎」になってはいないか、と自問する日々です。
===
くまねこ堂では様々なお品物の買取を行っております。それらお譲りいただきました品々を、なるべくタイムリーな形で当ブログで紹介してまいります。また、書籍・古道具などのご処分をご検討の際は、是非くまねこ堂までお申しつけ下さいませ。
お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。スタッフ一同心よりお待ちしております!
小野坂