ジョン・ダワー『容赦なき戦争――太平洋戦争における人種差別』猿谷要監修、斎藤元一訳(平凡社ライブラリー、2001年)と9・11から20年の現在

 いつもくまねこ堂ブログをご覧くださりありがとうございます。
 
 アフガニスタンからの米軍撤退に伴い、国際テロ組織アルカイダの動向などが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、すなわち9・11から20年後の今日にあって相次いで報道されています。たとえば、経済記事で定評のあるブルームバーグ社は「アルカイダがアフガンで復活へ、1~2年で米テロ攻撃可能に-米高官」(2021年9月15日)(https://bit.ly/3nvdcPT)と報じました。ここでは、アメリカ政府内では新たな紛争についての議論が始まっていることが、米国防情報局(DIA)や中央情報局(CIA)の高官の証言をもとに取り上げられています。

 とはいえ、過去20年間にわたるアフガニスタン紛争についてこそ、可能な限りの総括が求められるはずです。アメリカに対する新たなテロを防ぎたいのであれば、事の発端やこれまでの来し方につき再検討することが欠かせないはずです。

 そうしたアフガニスタン紛争の再検討を進める上で、2001年から2021年の20年間という、直接関係する時期だけ取り扱っても不十分であることが、歴史学の見地から指摘されることがあります。

 以前ご紹介しました、ナンシー・スノー『情報戦争――9・11以降のアメリカにおけるプロパガンダ』福間良明訳(岩波書店、2004年)が問題にしたのは、「理性・説明・歴史的な文脈をほとんど伴わない空疎なスローガン」が「対テロ戦争」を求める好戦的な世論の形成に用いられたことでした(※)。軍事行動として実際に暴力を用いる局面で、理性や歴史的事実などを無視した空疎な言葉が飛び交うのは、本当に恐ろしいことです。こうした問題は何も2001年以降のアフガニスタン紛争に限ったことではなく、過去の戦争でも生じています。

(※)ナンシー・スノー『情報戦争――9・11以降のアメリカにおけるプロパガンダ』福間良明訳(岩波書店、2004年)~9・11から20年(くまねこ堂古書ブログ、2021年9月14日)
https://www.kumanekodou.com/27656/

 最近、くまねこ堂に入荷した本に、上記の点について考える際にまず参考にすべき定番の一冊がありました。

ダワー『容赦なき戦争』

 ジョン・ダワー『容赦なき戦争――太平洋戦争における人種差別』猿谷要監修、斎藤元一訳(平凡社ライブラリー、2001年、原書1986年)です。本書は、副題に反映されたように、太平洋戦争を戦った日米双方の側が犯した、人種差別に起因する認識の歪みから軍事作戦において事実を軽視していった歴史を扱っています。事実に基づいて作戦を立案し実行しなければならないはずの軍事の分野で、どのように事実が軽視されていったのかを、ダワーは具体的に検証しています。日米間の戦争について私たちは、ややもすると圧倒的物量差によって勝敗が分かれたという見方にとらわれがちです。しかしながら、日本史の視点からみていくならば、日本軍および政府がそのような物量差をもたらした地政学的、あるいは経済的現実をあえて無視するかのような作戦を積み重ねていったことも、先の戦争の教訓としなければならないでしょう。

 他方で、日本に勝利したアメリカは、戦中の日本人に対する優越感を維持したまま、連合国を事実上代表して日本を占領管理することになります。ダワーは、アメリカ人が現実の日本人にふれることで、これまで有していた日本人に対する差別的な認識が緩和された、という一点のみでアメリカの日本占領の「成功」を論じるようなことはしません。むしろ日本人への蔑視が裏を返せばアメリカ人の施すべき温情の前提とされたような、微妙な歴史的展開にダワーは分け入っていきます。この過程で差別的な認識が温存、助長されたことについての指摘は、本書の見どころの一つといえます。

 このような微妙な展開を孕みつつ、振り返ってみると成功といわれるのが、アメリカの日本占領ではあります。しかしながら、ダワーが明らかにした人種差別と戦争の歴史をもとに考えると、アメリカの日本占領を簡単に「成功体験」とみなしてよいのか、大変ためらわれるところです。

 そこで次のような疑問が生まれます。もしアメリカが、アフガニスタンをかつての日本になぞらえて、アフガニスタンに武力介入したのであれば、その決定者の責任は相当重いのではないでしょうか? 時期も場所も異なる「成功体験」を現在の政策に持ち込み、正確な判断を下すというのは、そうたやすいことでありません。率直にいえば、そんな曲芸は不可能だと考えています。こういう点が、アフガニスタン紛争を検証する糸口になるはずです。このことは、日本史を含む形でアフガニスタン紛争を問い直す視点であり、日本に生きる私たちにとって意外にも重要な認識なのではないかと思います。

===
 くまねこ堂では様々なお品物の買取を行っております。それらお譲りいただきました品々を、なるべくタイムリーな形で当ブログで紹介してまいります。また、書籍・古道具などのご処分をご検討の際は、是非くまねこ堂までお申しつけ下さいませ。

 お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。スタッフ一同心よりお待ちしております!

小野坂


人気ブログランキング


よろしければシェアお願いします

2021年9月に投稿したくまねこ堂の記事一覧

くまねこ堂 古本出張買取対応エリア

東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城を中心に承っております。詳しくは対応エリアをご確認ください。

PAGE TOP