ロバート・N・プロクター『がんをつくる社会』平澤正夫訳(共同通信社、2000年)が入荷しました~レーガン大統領は「新種の発がん物質」だった!?

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 先日来、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ(9・11)が発端となったアフガニスタン紛争、あるいはアメリカの戦争の歴史といったテーマに関する書籍を紹介してきました。それらの中で最近アップしたものは、中村哲『医者、用水路を拓く――アフガンの大地から世界の虚構に挑む』(石風社、2007年)を取り上げました。あわせて、スタッフブログ/新着情報の過去の投稿をご覧くださればと存じます(https://www.kumanekodou.com/category/topics/)。

 今回は、9・11について、国際政治の構図やアフガニスタンの現地事情といった点からではなく、やや意外な面から考えていきたいと思います。9・11については、テロによってアメリカ人の日常が奪われた事件、という形でアメリカ人が受けた被害を思い浮かべることが多いのではないでしょうか。とはいうものの、奪われた「日常」とは、そもそもどんなものだったのでしょうか。

 むろん、テロの被害は軽視すべきではないし、その対処に奮闘した消防士の方々は称賛されるべきに違いありません。しかし、9・11のテロ以前のアメリカ人の暮らしが、平穏で安心安全であったと一片の曇りなく断言できるでしょうか。

 そのように問うきっかけは、最近入荷した次の本に接したことにあります。

『がんをつくる社会』

 上掲の画像は、ロバート・N・プロクター『がんをつくる社会』平澤正夫訳(共同通信社、2000年、原書1995年)です。本書第4章は、「レーガン政権の役割」となっています。この章は「ロナルド・レーガンこそ八〇年代のもっとも強力な新種の発がん物質であったのかもしれない」と結ばれています(173頁)。ガンという病気を生み出すアメリカの社会構造に目を向けているプロクターが、レー「ガン」政権の役割を問題視しているというのは、面白いジョークです(原書は英語なのでカンケイない)。

 つまり、アメリカ政府が「テロとの戦い」で守ろうとしたアメリカ人の日常とは、ガンと隣り合わせのものであったのではないか、ということが、プロクターによって示唆されているわけです。発がん性物質の蔓延は、アメリカの大量生産・大量消費に基づく社会・経済の仕組みと不可分です。当然、アメリカ経済と密接な関係を持っている日本人の暮らしも、そうした構造の一部です(※)。もっとも、日本の場合は、アメリカ経済との関係で悪影響を受けることもありますが、一方で恩恵を受けているのも事実です。

(※)ガンと大量生産・大量消費社会の関係性は、「癌」という(商)品の山による病を意味する漢字によって示されている、というのは…ギャグです。

 けれども、アメリカや日本での大量生産・大量消費を成り立たせるために経済的な負担を背負っている人々が世界中に存在することも忘れてはなりません。テロ組織が国際的な存在である一因には、国際経済の仕組みをめぐる共通の課題(もっといえば、恨み)があるからだ、とも考えられます。この問題が私たちの生活の一部であることを抜きに、国際的なテロ行為の原因を探ることはできないでしょう。

 プロクターが述べるところによると、アメリカ人の暮らしは、テロの危険と同様、あるいはそれ以上にアメリカ人自らが生み出した発がん性物質の危険にさらされていたような気がしてきます。さらに、そうした暮らしを維持することでアメリカは、世界中から想像を絶する恨みを買っていたという点も無視できません。プロクターは元々、ナチス・ドイツの人種差別や戦争における科学の在り方を専門的に研究してきた著者です。おそらくは、アメリカの生活様式と武力行使との結びつきも彼の視野に入っていたはずです。なお、繰り返しになりますが、日本人の暮らしもその構造の一部だということを強調しておきます。

 そう考えると、主として軍事的な意味合いで「テロとの戦い」に突き進んでいったアメリカ政府や、それに加担した日本政府は、テロの原因を深く理解しようとしなかっただけでなく、自国民の安全についてもあまり関心を持っていなかったかもしれません。こうした視点も、日本が抱える問題を含んだ形での、アフガニスタン紛争20年の検証にあたって必要なのではないでしょうか。

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小野坂


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