ペストの歴史に関する書籍のご紹介
春が待ち遠しいこの頃です。
今回はペストに関する書籍をご紹介します。とりあげるのは、ヒルデ・シュメルツァー著・進藤美智訳『ウィーンペスト年代記』(1997年6月、白水社)です。
印象的な表紙ですね。
以下、本書の特徴について考えてみます。
ウィーンの、ペストの、歴史ということで、かなり限定された内容です。本書をのぞいてみますと、中世からルネサンス期、バロック期にかけて繰返されたペストの流行に焦点を合わせつつ、19世紀末までを扱っていることがわかります。
そうだとすると、かなり幅広い年代について記述しているのですが、本書は全体で234頁と結構コンパクトです。それは、年代順に記しつつも、それぞれの章でテーマを明確にして語っているからかと思います。本書の目次を見てみますと、「外科医と医者」「人為的ペスト作り(ペスティス・マヌファクタ)」「バロック官僚主義と浄化儀式」などといった項目が並んでいます。なかなか興味深いですね。
これは、著者は上手に視点を選んで、面白く語ってくれているということかと思います。その語りは本書の魅力でしょう。
時には、著者は自分の思いも口にします。
例えば、19世紀末、実験室から発生したペストにより死者が出た後の展開に関して
「どうやらいつの時代でも、状況が似ると同じような反応が引き起こされるというのは、奇妙なことでもあり、また、人間というものは結局いつの世でも変わらないという思いを強くさせもする。」(220頁)
と述べています。
このような書きぶりにより、読者も、著者の思いを感じつつ、自分も様々に感じながら、本書を読んでいくことができます。
このような語り方をされるなら、分厚い専門書はちょっと苦手…という方も、楽しめるかもしれません。
訳者の進藤氏は、著者はペスト流行を、時代精神および政治的、社会的、経済的背景といった時代の中に位置づけ、とりわけ当時の社会を構成していた各階層が、ペストにどのように反応したかに力点を置きながら見ているとしています。
そしてその結果、この『ウィーンペスト年代記』は、ウィーンのペストの歴史を描きながら、同時にウィーン、広くはオーストリアの各時代の相貌を浮かび上がらせるものになっている、と述べます。(以上、訳者「あとがき」234頁・235頁)
本書は、例えば、中世から19世紀末までの膨大な資料が並び、そこから緻密な議論が展開される、といった性格ではありません。
しかし、著者の視点で、著者が語る歴史に触れることで、私たちは新しい知識を得るとともに、様々な思いを巡らせることができます。
そのような読書体験も、また良いものでしょう。
今回は、ヒルデ・シュメルツァー著・進藤美智訳『ウィーンペスト年代記』(白水社)を紹介いたしました。
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コトー
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