荻野富士夫『北洋漁業と海軍――「沈黙ノ威圧」と「国益」をめぐって』(校倉書房、2016年)、出品中です!

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 以前のブログで、日本郵船に関する図録を日露戦争との関係で紹介したことがあります。そこで今回は、日露・日ソ間の漁業をめぐる、いわゆる北洋漁業問題についての本を紹介していきます。

北洋漁業と海軍

 荻野富士夫『北洋漁業と海軍――「沈黙ノ威圧」と「国益」をめぐって』(校倉書房、2016年)です。まずは、本書の構成を「はじめに」を引用する形で紹介します。

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 本書では明治初年から日本の敗戦までを対象に、主に日露戦争後のポーツマス講和条約でロシアから獲得した漁業『権益』をテコに北洋漁業が拡大するなかで展開された、海軍による警備の実態とその意味するところを考察する。『満蒙』の『権益』は国策会社としての満鉄に集中していたのに対して、北洋漁業の主役は日魯漁業株式会社・日本水産株式会社などの民間企業であり、その点で現在想定しうる状況により近いと思われる。
 それに加えて、戦後に再開された北洋漁業の『保護』をめぐる問題、シーレーン防衛を名目として進められた一九八〇年代以降の海上自衛隊の活動拡大の様相を取り上げる。
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 しかしこの記述に続いて本題に入ると思いきや、本書は特高警察による拷問の末に獄中死した、『蟹工船』で知られるプロレタリア作家の小林多喜二に関する論点を提示します。漁業をめぐる経済史や日本海軍を中心とした軍事史研究には、いずれも物量の現実を扱う分野ですから、あまり小説という創作物が入り込む余地はないように思われます。他方で、『蟹工船』がこれまで知られていなかったということではないので、新出の論点ともいえないような感じもします。それではなぜ、こうした形で序論が展開されているのでしょうか。そうした本書の特色を紹介するために、「あとがき」でふれられた着想や執筆の経緯を引用します。

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 本書の主題は、二〇一〇年ころから小林多喜二の『蟹工船』を「歴史学」の観点から読み解きたいと模索するなかで、次第に固まってきた。ほぼ八〇年ぶりに『蟹工船』が脚光をあびたことにも刺激を受けつつ、北海道や小樽という地の利を生かせるテーマに取り組もうとした。多喜二「草稿ノート」や彼の手紙の編集にかかわるなかで、『蟹工船』に込めた未完のもう一つの意図が浮かび上がってきた。多喜二の言葉を借りれば、「軍隊自身を動かす、帝国主義の機構、帝国主義戦争の経済的な根拠」――「官憲と軍隊を「門番」「見張番」「用心棒」」とすることにより、はじめて資本主義の「無慈悲な」侵入や「原始的な「搾取」」が可能になること――に、部分的とはいえ、迫ることができるかもしれないと考えた。
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 この「あとがき」がどう興味深いのか、若干述べていきたいと思います。小樽商科大学教授(奥付より。現在は名誉教授)の荻野氏は、岩波新書の『思想検事』(2000年)、『特高警察』(2012年)で知られる治安維持法史の専門家です。また、上記引用の小林多喜二の「手紙の編集」とは、『小林多喜二の手紙』(岩波書店、2009年)を指しているものと思われます。すなわち、治安維持法研究、そして小林多喜二研究の一環として、北洋漁業史に取り組んだ荻野氏の成果が、興味深いのです。その成果は、従来の経済史ないし軍事史研究、あるいは日ソ関係史研究では十分に捉えきれなかった北洋漁業の構造的な問題に迫ったところにあると思われます。その構造的な問題とは、いうまでもなく、荻野氏が「多喜二の言葉」を借りて語った、近代日本における経済と軍事との関係性のことです。

北洋漁業と海軍

 また、小林多喜二の読み直し、という形で北洋漁業研究に一石(かなり大きいと思いますが)を投じた荻野氏の『北洋漁業と海軍――「沈黙ノ威圧」と「国益」をめぐって』は、研究テーマの設定の仕方という点で参考になります。単に北洋漁業研究としてだけでなく、広く歴史研究、文学研究、そしてその接点を探る研究のために、本書が読み継がれることを願っています。校倉書房から刊行された研究書は、現在入手が困難ですが、古書店を通じて必要な方々に届くことがあれば幸いです。

小野坂


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