川上憲人、小林簾毅、橋本英樹編『社会格差と健康――社会疫学からのアプローチ』(東京大学出版会、2006年)を紹介します。

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 古本の出品作業を通しても、健康問題と社会的な構造との関係性を問う研究にふれることがあります。今回はそうした書籍を紹介していきます。

Social Epidemiology

 上掲の画像は、川上憲人、小林簾毅、橋本英樹編『社会格差と健康――社会疫学からのアプローチ』(東京大学出版会、2006年)です。同書は主として医学の専門家によって執筆されたものです。

 ところで、社会疫学とは何でしょうか。易学では誤変換であって、それでは占いになってしまいますから、気をつけたいところです。

 第1章の、川上憲人「社会疫学――その起こりと展望」は、次のように切り出されています。

 「貧困や差別、社会構造や雇用などを含む社会・経済・文化が人の健康に影響を与えることについては、多くの人が賛同するだろう。しかしこれを科学的に立証し分析することは意外に立ち遅れている。社会疫学は、社会構造が健康と疾病の分布にどのように影響し、またこれに関係するメカニズムを解明しようとする疫学の新しい一分野である」

 一方で疫学は、「ある要因と疾病または健康状態との因果関係を明らかにする」ことを主要な目的とする分野とされます。このように疫学は原因→結果の関係をはっきりさせるための学問分野です。しかし、それに社会を冠した場合、単純明快な原因→結果の筋道が特定できるとは限りません。

 それでは、社会疫学はどのような分析視角で研究されるものなのでしょうか。同書では、人の健康と社会構造の関係性ついて、次の画像のように図式化されています。

Social Epidemiology

 むろん、疫学という特定分野の知見なしに社会疫学は成り立ちえないでしょう。しかし、社会構造という全体像なしには、疫学の真価は発揮されないのではないでしょうか。特定分野の詳細な知見と、それを全体の中で位置づける試みという、異なる専門性いずれもから目を切らない努力が、今日私たちに求められていることなのではないでしょうか。

 なお、今回の話題に関係する書籍として、以前紹介した、ロバート・N・プロクター『がんをつくる社会』平澤正夫訳(共同通信社、2000年、原書1995年)についてもふれたいと思います。本書第4章は、「レーガン政権の役割」となっています。この章は「ロナルド・レーガンこそ八〇年代のもっとも強力な新種の発がん物質であったのかもしれない」と結ばれています(173頁)。社会構造は、人の手を離れて客観的に存在するものではなく、政治過程という人間の意識的あるいは無意識的な関与によって形づくられているわけです。社会構造が必ずしも静態的ではないことにも注意が必要です。

※ロバート・N・プロクター『がんをつくる社会』平澤正夫訳(共同通信社、2000年)が入荷しました~レーガン大統領は「新種の発がん物質」だった!?(くまねこ堂古書ブログ、2021年9月21日)
https://www.kumanekodou.com/27705/

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小野坂


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