和田春樹『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)が入荷しました

 いつもくまねこ堂ブログをご覧いただきありがとうございます。最近、近現代の韓国・朝鮮史に関する学術書が多数入荷しましたので、それらを紹介していきます。

 隣国の歴史を知ることが重要なのはいうまでもありません。なかでも、朝鮮戦争(1950年開戦、1953年停戦)は、現在も平和条約が締結されずにおり、法的には終結していない戦争です。完全に過去の出来事となったわけではないこの戦争について、私たちは向き合っていく必要があります。最近でも、次のような記事が発表されています。

※アングル:朝鮮戦争で引き裂かれた離散家族、遠のく再会の夢(ロイター、2022年10月9日)
https://jp.reuters.com/article/us-southkorea-northkorea-reunions-idJPKBN2R10BR

 そこで、朝鮮戦争の歴史を学ぶ際の必読書である。以下の本を取り上げたいと思います。

和田春樹『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)

 和田春樹『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)です。著者の和田春樹氏(1938年-)は、東京大学名誉教授で、ロシア・ソ連史および朝鮮史の第一人者の一人です。1938年生まれの和田氏にとって、朝鮮戦争は中学生の時期にあたります。朝鮮戦争の研究に同時代史として取り組んだ著者から学ぶべき点は多いはずです。

 本書は次のように切り出されていますが、そこで必要だと述べられていることは、現在でもなお一層求められているように思われます。

「朝鮮戦争は半世紀前にはじまった。しかし、この戦争は未だ完全には終わっていない。過去になり切っていない戦争である。それはいまも東北アジアにいきるわれわれの運命に大きな影響を及ぼしている。だから、この戦争を思い出し、その姿をみつめ、その意味を考え抜くことはわれわれの未来のために必要である」

 『朝鮮戦争全史』の特徴は、その観点の独自性と、それを裏づける史料的根拠にあります。先に史料に関して述べておくと、特筆すべきことは、本書がソ連崩壊後、1990年代半ばより公開されていったロシア語文献を用いていることです。その上で観点の方を確認すると、序章に次のような記述があります。第二次世界大戦終結後のイギリスとフランスの植民地独立運動にふれ、ついで朝鮮戦争に関係したソ連、日本、アメリカ、中国、の状況を概観しつつ和田氏は、朝鮮戦争の見方を下記のように提起しています。

 「これは東北アジアのすべての国を巻き込んだ東北アジア戦争であった。中国革命とこの戦争によって東北アジア新秩序が確立されたのである。南北朝鮮の関係はもとより、米国、中国、ソ連の関係、さらには日本と台湾の位置が確定した。またこの戦争によって米ソ対立は世界的に決定的な新段階に進み、超大国の軍事的対峙としての冷戦体制が本格化した」

和田春樹『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)

 このように、朝鮮戦争を、大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との南北二国の対立という点にとどまらず、米ソ対立、日本の敗戦と講和、中国における国民党と共産党との内戦という関係諸国の要因をも含めて、史料に基づいて分析していくことが示されています。

 こうした総合的な理解を目指して書かれた『朝鮮戦争全史』は、ロシアのウクライナ侵攻に直面している現在に私たちにとって、再読すべき重要な一冊といってよいのではないでしょうか。本書に含まれた、過去と現在との関係という時間軸や、「東北アジア戦争」という広範な地理的視点は、長く広いものであり、かつそのことは史料的根拠に基づいて語られています。簡単に紹介できるものではないことは承知しつつも、本書の重要性に鑑み、このブログで紹介することを試みました。不十分な紹介ではありますが、最後までお読みいただき感謝申し上げます。

小野坂


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