石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)が入荷しました

 いつもくまねこ堂ブログをご覧いただきありがとうございます。先日の投稿に引き続き、最近入荷した歴史学の研究書を紹介していきます。今回は近代中国史になります。

石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)

 石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)です。著者の石川氏は京都大学教授であり、中国共産党史を専門としています。近著に『中国共産党、その百年』(筑摩選書、2021年)があります。 今回紹介する『中国共産党成立史』は、岩波書店公式サイトによりますと、「日本社会主義思潮の流入,ソビエト・ロシアからの積極的働きかけ,五四運動後に社会変革を指向した中国知識人の結集,の3点からあますことなく分析」した研究であり、中国共産党の成立過程(1921年成立)を「中国一国史の枠組みから解き放つ」内容となってます。

 そのため、「本研究は,日本近代史や欧米社会主義史に関心を持つ人にも興味深いだろう」というわけですが、まったくもってその通りです。しかも、著者の議論の前提になっているのは、「徹底的に内外文献を相互対照,比較」したからこそ明らかとなった事実関係です。こうした定評のある研究書が入荷することは珍しいので、前回に引き続いてブログで紹介しています。

※ここまでの引用は、岩波書店公式サイトより
https://www.iwanami.co.jp/book/b265117.html

 とりわけ本書で興味深い部分は、中国共産党の成立にあたって、「社会主義」、「共産主義」といったカール・マルクス由来の思想をどのように取り入れたのか、そして、共産主義革命となった1917年のロシア10月革命の経緯をどのように知ったのか、その後の国際的な共産主義運動と中国共産党の政治思想はどのような影響関係にあるのか。といった読者の素朴な疑問に答えているかのような箇所です。このことは、一定の政治思想を共有した組織である政党の成立を理解するためには不可欠なはずですが、本書の登場までよくわからなかったことなのです。というのも、ドイツ語文献、あるいはロシア語文献を中国人運動家が必ずしも直接に入手して読んでいたわけではないからです。原典と(やがて共産主義者となる)中国人運動家とを媒介したのは何だったのか、ということこそ、本書で明らかになったことなのです。

石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)
▲『中国共産党成立史』76頁。イギリス(左)と中国(右)両国の共産党機関誌の画像

 こうした事実関係の解明がまさしく「中国一国史の枠組みから解き放つ」ことであり、「日本近代史や欧米社会主義史に関心を持つ人」にとっても重要な本なのです。こういってしまうと何が媒介したのか、というのは、もう答えてしまったような感じがしますが、1910年代末からは日本語文献を介して、1920年代半ばからはイギリスやアメリカの英語文献を介して、中国の共産主義者はマルクス主義やロシア革命について学んでいきました。こうした日本から英米へという文献の輸入先の転換が、中国共産党の歴史にとってどのような意味を持っていたのでしょうか。このことについての著者の分析は、本書の見どころの一つです(本書75-80頁)。

 このような中国共産党の成立や初期の活動に関わる経緯は、まぎれもなく国際関係史といってよいでしょう。

 引き続き、こうした形で入荷した書籍について紹介していければと考えております。今後ともよろしくお願いいたします。

小野坂


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