李恢成、水野直樹編『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』(岩波書店、1991年)が入荷しました #学術書 #歴史学 #革命

 最近入荷した、韓国・朝鮮近代史、中国近代史の書籍を紹介していきます。今回は以下の書籍を取り上げます。

李恢成、水野直樹編『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』(岩波書店、1991年)

 李恢成、水野直樹編『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』(岩波書店、1991年)です。本書は岩波書店公式サイト(https://www.iwanami.co.jp/book/b261582.html)によりますと、「朝鮮人革命家キム・サンの波瀾に満ちた半生を語る『アリランの歌』成立の真相と著者二人の実像に迫るドキュメント・評論を集成」した内容となっています。引用中の「著者二人」とは、すなわち副題のキム・サン(張志楽)とニム・ウェールズ(ヘレン・フォスター・スノー)です。『アリランの歌』が扱っているのは、主に1920~30年代の出来事にあたります。

 前回の投稿で石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)を紹介した際は(※)、中国共産党草創期の活動において、日・英の翻訳文献を用いたマルクス主義の受容やロシア革命の知識の摂取が存在したことにふれました。こうした共産主義運動の国際性は、上記に限らず、様々な形をとって歴史に刻まれています。今回紹介する、『アリランの歌』という作品についての研究書、『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』は、朝鮮人革命家キム・サンの足跡を、アメリカ人ジャーナリストのニム・ウェールズが描いたという、両者の中国共産党を介した交流を詳細に検討するものとなっています。

(※)石川禎浩『中国共産党成立史』(岩波書店、2001年)が入荷しました(くまねこ堂古書ブログ、2022年10月14日)
https://www.kumanekodou.com/31316/

 ただし、『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』は、そもそも『アリランの歌』の内容や、張志楽という本名を持つ朝鮮人革命家キム・サンとはいかなる人物なのか、そして第一次世界大戦後から日中戦争期にかけての東アジア民族運動・共産主義運動はどういった経緯をたどったのか、といった諸点の予備知識を持っていないと、読み進めるのが難しいかもしれません。まずもって、朝鮮人革命家とアメリカ人ジャーナリストが中国で出会う、というのがどういう状況なのか、と困惑してしまうことも想像されます。

 このブログの投稿でそれら予備知識を過不足なくまとめることは困難ですが、読書リストという形でいくつか列記し、後日の投稿を期したいと考えています。

 まず、ニム・ウェールズ、キム・サン『アリランの歌―ある朝鮮人革命家の生涯』松本いを子訳(岩波書店、1987年)を読むべきなのは、いうまでもありません。この訳書には、韓国・朝鮮史研究の大家、梶村秀樹による解説が付されています。あわせて、梶村秀樹の講演録に基づく、『排外主義克服のための朝鮮史』(平凡社、2014年)において、朝鮮独立運動史の概要をおさえ、その中でキム・サンがどのように登場するのか確認するのも一手でしょう。また、キム・サンについては、沈志華『最後の「天朝」――毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮』上巻、朱建栄訳(岩波書店、2016年)でも言及があります。

排外主義克服のための朝鮮史

 これら書籍を読んで、再度『「アリランの歌」覚書―キム・サンとニム・ウェールズ』に取り組みたいと思っています。

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小野坂


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