柄谷行人『哲学の起源』(岩波書店、2012年)が入荷しました!~先行者としてのハンナ・アレント

  いつもくまねこ堂ブログをご覧いただきありがとうございます。今回紹介する本との関連で、ある新刊情報についてまずふれたいと思います。

 ハンナ・アレント『人間の条件』の新訳が間もなく刊行されます(牧野雅彦訳の講談社学術文庫、2023年3月刊行予定)。近年、人工知能と人間との関係、人間の経済活動とウイルス感染症との関係など、人間の自由や安全を揺るがすような事態が相次いでいます。そして、人工知能やウイルスの問題は戦争と無縁ではありません。そのことは約一年におよび未だに終戦の見通しがつかめない、ロシアのウクライナ侵攻でも表面化しています。ただし、こうした「人間の条件」への危機に対して強い注意が向けられるとは限りません。むしろ、人々はその問題の大きさを無意識に感じとるがゆえに、目の前の危機であればあるほど無視しようとしてしまいます。

 ところでアレントが『人間の条件』で用いたいくつか概念は、彼女が古代ギリシア哲学の伝統から引き出してきたものです。そうしたアレントの取り組みを考えるにあたって、参考にしたい本があります。

柄谷行人『哲学の起源』(岩波書店、2012年)

 柄谷行人『哲学の起源』(岩波書店、2012年)です。本書は、柄谷『世界史の構造』(岩波書店、初出2010年)の続編として、国家や資本を乗り越える交換様式の出現を論じるにあたり、古代ギリシア、イオニア地方の都市国家に存在した自由思想を検討したものになります。この点に柄谷氏が着目するきっかけは、おそらくアレントの『革命について』志水速雄訳(ちくま学芸文庫、1995年)における議論の重要性を認めつつも、アテネとイオニアの差異についての考察を深める必要性を感じとったことにあるのでしょう。実際、「ギリシアにおける民主主義(デモクラシー)の進展といえば、アテネを中心として語られる。この見方はまちがっている」(同書23頁)と宣言されているので、気をつけて読みましょう。これまでの勉強で知った知識は、読書の案内となるよりもただの偏見として、私たちを迷わせるだけかもしれないからです。

 では、本を読むとはどういうことなのか、柄谷行人『マルクス その可能性の中心』(講談社学術文庫、1990年)で確認してみましょう。柄谷は次のように同書を書き出しています。

マルクスその可能性の中心

「ひとりの思想家について論じるということは、その作品について論じることである。これは自明の事柄のようにみえるが、必ずしもそうではない。たとえばマルクスを知るには『資本論』を熟読すればよい。しかし、ひとは、史的唯物論とか弁証法的唯物論といった外在的なイデオロギーを通して。ただそれを確認するために『資本論』を読む。それでは読んだことにならない ”作品”の外にどんな哲学も作者の意図も前提しないで読むこと、それが私が作品を読むということの意味である。」(9頁)

 これ以上、ここで余計な一言を加える必要はありませんね。不必要な前提を排して、『哲学の起源』を読んでみましょう。

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