池内了『生きのびるための科学』(晶文社、2012年)が入荷しました
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さて、今回紹介する本との関連で、次のニュースにふれたいと思います。
原発60年超運転へ「束ね法案」を閣議決定…老朽原発への不安は消えないまま(東京新聞、2023年3月1日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/233783
原発の運転年限をめぐる問題は、今国会の重要な争点の一つです。タイムリーにも、2011年3月11日の東日本大震災、およびそれに伴う原発事故を受けて刊行された評論集が入荷しました(3月15日作成)。
池内了『生きのびるための科学』(晶文社、2012年)です。名古屋大学名誉教授の池内氏は、宇宙物理学の専門家であり、科学技術と社会と関係性について多くの評論を発表されてきました。まずは、最近のニュースとの関連で、原発の運転期間について、3・11直後にどのような議論がなされていたのかを、本書をもとに振り返ってみたいと思います。
本書に収録された評論(初出は『北海道新聞』掲載の2012年2月3日付記事)で、池内氏は次のように述べています。
「やっと政府が原発の運転期間を『原則として四〇年に制限する』ことを柱とする原子炉等規制法の改正案を法制化する方針を発表した。以前から老朽原発の危険性が指摘されており、政府もやっと腰を上げたと歓迎したい」(68頁)
その一方で池内氏は、「原則として」という文言で例外をほのめかすような点に「法の精神が空洞化される危険性」があると付言しています。実際、2012年改正法案の場合、例外では、最長で60年の運転期間が認められることが当時から指摘されていました。これでは、合法的であったとしても、原発事故を防ぐための規制というこの法律のそもそも趣旨に合致しない事態も出てきてしまう可能性があるわけです。
続けて池内氏は、「老朽原発」がどういった代物なのかについて、簡潔にまとめています。
「福島第一原発の1号機から5号機まではすべてマークI型と呼ばれる一世代前のタイプで、格納容器が脆弱で地震に弱いという欠陥を抱えている。さらに、古い基準で設計された原発は当初予想もしなかった不具合があちこちに見つかり、つぎはぎだらけの原発と言っても過言ではない。実際、今回の地震動で配管が損傷し、格納容器にひびが入ったのではないかと指摘する学者もいる」(69頁)
このように「老朽」というのは、そもそも、地震に弱い格納容器を含む旧来の設計であるという意味があります。また、長期間の運用において建設時に予想もしなかった不備という形で経年劣化が生じています。その上で、震災時に事故を起こした原発まで存在するということに注意を払わなくてはなりません。
この現実をふまえ、今国会の原発法案の是非を考える必要があります。該当の法案は、「原発の運転期間についての新制度は、新規制基準の審査で停止した期間が、60年を超えて運転できる期間に加算される」(前掲の東京新聞記事)という規定を含むものです。そのため、上記の老朽化の問題に加え、「審査で停止した期間」で延長戦をやっていいのかどうか、という点も問われるべきでしょう。その際、原発は大きな機械をコンピュータ制御で動かしているものですから、長い間使用していなかったパソコンや自動車がスムーズに動くかどうかと想像することは、そこまで間違ったたとえ話ではないように思われます。
2012年刊行の書籍を、現在の国会に出された法案を考える際に参照してあらためて、原発事故は終わっていないのだと認識させられました。
小野坂
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