「春の先の春へ 震災への鎮魂歌 古川日出男 宮澤賢治「春と修羅」をよむ」紹介-声に導かれてー

日が長くなってきて、季節の移ろいを感じます。
皆さまいかがお過ごしですか。

本日は以下の書籍をご紹介します。

「春の先の春へ 震災への鎮魂歌 古川日出男 宮澤賢治「春と修羅」をよむ」(宮澤賢治・古川日出男著、左右社、2012年)です。

宮澤賢治 春と修羅

この本では「春と修羅」の中から5編が収録されています。美しい装丁の本を開くと、賢治の詩が現われる。その中から「報告」を引用します。

  さつき火事だとさわぎましたのは虹でございました
  もう一時間もつづいてりんと張つて居ります

このような詩を読んだ時、やや怖さを覚えます。「火事」という荒々しいもの、悲惨をもたらすもの、無力感を感じさせるようなものが、「虹」だったという。それは「りんと張」っている。その虹の情景を思うなら、なんて静かなんだろう。でも、逆に「虹」も「火事」かもしれないと思ってしまう。緊張感のある美しさを持ったものが、本性を見せた時には、手がつけられないような暴力性を溢れさせるのかもしれない。
そんなことを思って、ぞっとするのです。そしてこの詩は怖いことを、平気で、きれいに言ってしまっているからより恐ろしい。「ございました」「居ります」の丁寧がその感じを強めている。こわいこわい。
我々の生活の中で、何かが豹変するような怖い瞬間があるのだろうと思わせる、そんな詩です。

私はこの本を開いてたまたま目に入った詩からこのような印象を受けましたが、それはまた違うものになり得るはずです。この書籍にはCDが付属しております。古川日出男などが、賢治の詩を読んでいる声が収録されています。

声。その力は我々を遠くへ連れていくでしょう。古川は語ることの力を信じる作家だと言われるように思います、この本の作りにもその古川の特徴が表れているように思います。

CDに録音された声に語られることで我々はきっと衝撃を受けるのでしょう。声に宿る魂に捕まえられるのでしょう。そのような経験ができるのもすばらしいかと思います。

「春の先の春へ」という名前になっています。花が咲き若葉の芽吹く今、湿り気を持った風がくすぐる今、改めて賢治の詩に出会い心奪われ、そして、声の力で、春の先の春へ、まだ見ぬところへ、行ってみるのはいかがでしょうか。

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本日もお読みくださりありがとうございました。

コトー


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