驚きから深みへ―成田聡子「えげつない!寄生生物」のご紹介―
GWも最終日です。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
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さて本日、朝眩しさに目が覚めると、まだ5時台でした。
明るい季節がやってきています。日陰に生きる自分としては、身構えて備える所存です。そのような気分の自分でも、わくわくできるような以下の書籍を本日はご紹介します。
成田聡子「えげつない!寄生生物」(新潮社・2020年)です。
「はじめに」において成田氏は、「本書では、寄生の中でも、宿主をマインドコントロールし、自己の都合の良いように操る技をもつ選りすぐりの寄生生物たちをご紹介します」と述べています。
どきどき!!期待させるお言葉です。
様々な「えげつない!」寄生生物が登場しますが、今日のブログではハリガネムシについて記述した部分をご紹介します。
ハリガネムシはカマキリの腹にいて、宿主を水に向かわせる生き物として、何だか有名な気がします。
以下本書の記述をまとめますと、
ハリガネムシは水の中で孵化し、イモムシのような幼生になります。カゲロウやユスリカなどの水生昆虫は、子供の頃は水の中で生活をしていますが、ハリガネムシの幼生は彼らに食べられるのを待っています。彼らに食べられると、その腹内部の適切な場所で殻を作り休眠した状態になります。腹に休眠したハリガネムシの赤ちゃんを抱えたまま、カゲロウやユスリカが羽を持った成虫になり、陸上での生活を始め、それをカマキリなどの肉食昆虫が食べます。すると、ハリガネムシの赤ちゃんは目を覚まし、カマキリの腹で養分を吸収しながら成長します。そして繁殖能力も持つようになると、水辺には自分では決して行かないカマキリを水辺に誘導します。水に落ちるとハリガネムシはカマキリの腹から出てきて、水の中で交尾の相手を探します。一方のカマキリは溺れて死んでしまいます。交尾に成功した場合は、また水中にハリガネムシの卵が産み落とされます。(p8‐p10)
以上をイラストにしているページはこちら。
きゃわいらしい絵ですー💕
自分はあまり詳しくは知らなかったのですが、ハリガネムシはカマキリに直接寄生するのではなく、カゲロウやユスリカの腹にいる段階があるとのことでした。面白いです。
交尾や誕生を水の中で行うハリガネムシが、なぜカゲロウやユスリカからカマキリという二段階を踏み、最終的に陸上で生活するカマキリを水中に向かわせて水に戻るのか、興味深いです。
また、どうしてカマキリを水中に移動させるのかについては、2002年フランスのチームのコオロギを使った実験が参考になるとされています。ハリガネムシに寄生されたコオロギの行動実験により、寄生された昆虫は水それ自体に近づくように仕向けられているのではなく、水のキラキラした反射に反応し飛び込むようにされているのではないかと推測されたとのことです。また、ハリガネムシに行動操作を受けているコオロギの脳内でだけ、特別に発現しているタンパク質が見つかり、それらのタンパク質は、神経の異常発達、場所認識、光応答にかかわる行動などに関係するタンパク質と似ていたという報告も紹介されています。(p11‐p13)
加えて、この本では、水に飛び込んだ昆虫は、川に生息する魚の貴重なエネルギー源になっているという指摘もされています(p13‐p14)。これは興味深かったです。寄生生物はしっかりと生態系の中に組み込まれており、それがいなければやはりその営みには変化があるのです。
例えばテレビやYouTubeで寄生する生き物が紹介された時、視聴者である我々は好奇や驚異を持って見ますが、さらにその先、寄生生物の一生や生態系の中でどのような位置にいるのかまで追っていくことはなかなかできないように思います。「すごいなあ」「こわいなあ」で終わってしまう。しかし、この本は、可愛いイラストや宿主生物の一人称の物語ページなども挟み親しみやすくしつつ、研究の成果も紹介して、我々をより広く深いところまで連れていってくれます。そこまで知ってこそ、その生き物に少し触れられたことになるのでしょう、たとえほんの少しであるとしても。
この本を読んで、「人間は自然にやさしくできているだろうか?」などどいった、家電のCMなどは改めて生ぬるいのだなあと思いました。そうじゃない、我々はいつも奪い合いをしているのだ、と。そしてその奪い合いがいかに複雑かということも、この本からまた知ることができて、感慨深かったです。
気温も上がり、木々も繁り、生物を見かけることも増える季節になりました。皆さま、本日紹介した「えげつない!寄生生物」(成田聡子・新潮社・2020年)を読み、人間を含めた生物世界の多様と複雑に思いを巡らしてみるのもよいのではないでしょうか。
本日もお読みくださりありがとうございました。
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