ハナ・アーレント『全体主義の起源』全3巻、大島通義・大島かおり訳(みすず書房、1981年)が入荷しました

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 最近の買取で、ハナ・アーレント『全体主義の起源』全3巻、大島通義・大島かおり訳(みすず書房、1981年)が入荷しました!

ハナ・アーレント『全体主義の起源』全3巻、大島通義・大島かおり訳(みすず書房、1981年)

 『全体主義の起源』は全3巻で構成され、扱っている内容も多岐にわたります。今回は、その詳しい内容に立ち入るよりも、そのはるか手前の、タイトルに関する話から始めたいと思います。「全体主義」という言葉は、ナチス・ドイツやスターリンのソ連を批判する概念として、一般に用いられてるように思われます。しかし、アーレントはその起源を浮き彫りにすることによって、ドイツやソ連に向かうような批判を、西欧国民国家の現状とその歴史に対して投げ返しています。このような、研究対象に向けた矛先を、自らあるいは自らが立脚する社会に反転させていく研究をしていた人物として、アーレントを取り上げたいと思っています。この反転について知ることは、循環的なフィードバックを用いた考え方に近づく手がかりでもあります。

 そのような課題を設定した上で今回の投稿では、全3巻のうち、『全体主義の起源2帝国主義』を扱います。同巻においてアーレントは、マルクス主義を批判的に受容しつつ、独自の議論を展開していきます。それは、「資本蓄積」の繰り返しによる対外膨張というローザ・ルクセンブルクが提出した経済法則に対し、経済法則に反する際限のない「権力蓄積」の過程を描き出す、という形をとっています。そうした権力の問題についてはアーレントが人の移動、就労を国家が管理することで生じる権力を論じた部分が重要になります。

ハナ・アーレント『全体主義の起源』全3巻、大島通義・大島かおり訳(みすず書房、1981年)

 その部分は『全体主義の起源2帝国主義』の末尾にあたります。アーレントは国民国家の機能不全としての難民問題を扱い、続く第3巻の『全体主義の起源3全体主義』で全体主義国家における強制収容所の機能を論じています。この叙述の順序からいっても、人の移動、就労を国家が管理するという局面で生じる権力の分析が、アーレントの研究においては、帝国主義と全体主義とをつなぐ要素になっていると思われます。以下の画像が、該当部分の目次です。

ハナ・アーレント『全体主義の起源』全3巻、大島通義・大島かおり訳(みすず書房、1981年)

 人の移動、就労を国家が管理することで生じる権力、とはどのようなことなのか。この点については、明示されるかどうかはともかくとして、アーレントの議論をふまえた形で近年論じられることがあります。たとえば、下記の本もそのうちの一つにあたると考えます。テッサ・モーリス=スズキ『自由を耐え忍ぶ』辛島理人訳(岩波書店、2004年)109-110頁には次のように書かれています。

「二〇世紀半ばにおける政治的な大変動は、難民保護に関する国際制度の創設を必要とした。第二次大戦後に西欧諸国などの政府は、戦後復興と急速な経済成長を大規模な労働移民の受け入れ促進によって達成した。同時に、多くの政府は、移民労働者の滞在期間を制限し、経済的に不要となった移民には速やかな帰国が義務付けられるように法制度を整えた。換言すれば、国家はこの時期に入国、雇用、居住の権利にかかわる法規の複合的ピラミッドを構築した」

 国際機関史という点からこの問題を考えていくと、第二次世界大戦後の国際機関・国際NGOによる難民救済・労働者教育事業が、各国の経済復興を支えることになった事例に突き当たりました。そこでは、国際機関の事業や国際的な運動が、その受け皿となる国々のナショナリズムにうまくはまるように形成されていった側面があります。こうしたインターナショナリズムとナショナリズムの入り食った関係を念頭に、冷戦の対立構図の形成過程を分析した研究が近年発表されています。

 上記のナショナリズムについては、国家主義・民族主義どちらの要素もあります。むろん、ナショナリズム自体が諸悪の根源というわけではありません。しかし、難民問題などの人の移動をめぐる問題でとくに厄介なのは、境界が一致しない国家主義と民族主義の両者を強引に同一化する政治指導や人種的偏見が存在することです。しかも、そうした政治指導や人種的偏見を、皮肉にも国際的な難民救援事業が支えてしまった側面があります。そのような問題を検討するために必読なのが、次の書籍です。タラ・ザーラ『失われた子どもたち――第二次世界大戦後のヨーロッパの家族再建』三時眞貴子ほか訳(みすず書房、2019年※)。こうした問題意識の古典的な例として、アーレントが難民キャンプについて論じた部分が参照されることがあります。

 今回の投稿はアーレントを紹介するものであったわけですが、『全体主義の起源2帝国主義』の議論が近年の研究に影響を与えている点について述べたところで、一区切りとします。なお、ザーラ『失われた子どもたち』は、以前買取価格保証の候補に挙げていました。買取のご依頼の際に弊社サイトの該当ページをご覧くださると幸いです。
https://www.kumanekodou.com/item_entry/31342/

小野坂


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