ジェームズ・ジョル『第一次世界大戦の起源(改訂新版)』池田清訳(みすず書房、1997年)を紹介します。
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6月28日は、1914年のサラエボ事件、1919年のヴェルサイユ条約調印の日ですね。前者は第一次世界大戦の発端となった暗殺事件の日であり、後者はその大戦の講和条約の一つ(対独講和条約)です。
第一次世界大戦は、ヨーロッパ中の国民国家が、その体制全体を動員して戦い続けた総力戦となりました。ところで、この「総力戦(total war)」という言葉がどういった戦争の名であるのか、ご存じでしょうか。「総力」といっても、第一次世界大戦以前の戦争のように軍隊同士が全力で、すなわち「総力を挙げて」戦うのと、第一次世界大戦を指して「総力戦」というのとは、意味が異なるのです。
第一次世界大戦とそれ以前の戦争との違いは、大きなところでは、次の点があります。第一次世界大戦以前は事前に蓄えた兵器、兵士で戦ったのに対し、第一次世界大戦は戦いながら兵器を製造し続け、さらには新兵器も開発し、その新兵器を扱うような将校、兵士を養成していった戦争でした。
なぜ、そのような空前(絶後ではなくなった)の規模で、悲惨な戦争が起きてしまったのでしょうか。この問いに真正面から答えようとした著作が在庫にございます。
ジェームズ・ジョル『第一次世界大戦の起源(改訂新版)』池田清訳(みすず書房、1997年、原著第2版1992年)です。同書は現在2017年の新装版もあり、長年読み継がれてきた名著です。
ジョル『第一次世界大戦の起源』の大きな特徴は、まさにタイトル通りの問題を、外交、軍事、内政、国際経済、帝国主義対立といったテーマごとに開戦原因を検討している点です。ということなら同書で、上記のどの分野に問題が潜んでいたのか、その答えをジョルが述べてくれるのかな、と想像してもよさそうな気がします。さらには、分割して詳しく検討するのは、歴史研究であれば当たり前だろう、それが専門家というものだ、とお考えの方もおられるでしょう。
しかし、各章ごとの結論で示されているように、ジョルによれば、上記テーマごとの検討では第一次世界大戦の開戦原因の説明に足る決定打が見いだせなかったというのです。
そこで、外交、軍事、内政、国際経済、帝国主義対立を検討した各章に続いて、ジョルは「1914年の雰囲気」という章を設けています。「雰囲気」といってもそれこそ各国で事情が違いすぎるわけで、揃いも揃って戦争に踏み出してしまった共通の理由など、「雰囲気」研究から出てくるはずはなかろう、と思われた方もおられるかもしれません。当然ながら、それはジョルにとっては先刻承知のことであって、その点の留保に続けて彼は次のように述べています。
「いずれも場合においても、直接の物理的脅威に抵抗する唯一の手段としての戦争観はいうにおよばず、政治・社会・国際の全分野にわたる諸問題の解決策として、あえて戦争の危険を冒す、ないしは戦争を受け入れるひとつの意志が存在していたことは事実である。だからこの大戦の原因を探る鍵は、結局のところ、ヨーロッパの指導者たちやその国民の精神状況を究明することにあるといえよう」
なんということでしょう。「結局のところ」というわけですから、これが結論ジョルの下した結論だと受け取りましょう。そういうことなら、「やっぱしわかんないのか」と呆れる方が出てきても不思議ではありません。
しかし、次のように発想を転換して、ジョル『第一次世界大戦の起源』を再読してみてはいかがでしょうか。歴史研究の価値は解答よりも、むしろ新たな問いを生み出すことであり、と同時にテーマごとに勝手に切り分けるのをやめ、同時代の目線を復元するところにあるのだとしたら、どうでしょうか。『第一次世界大戦の起源』の解答を求めて読んでしまった一回目の読書とは異なる世界が広がっているはずです。
小野坂
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