トロツキー『ロシア革命史』山西英一訳(角川文庫、1972年改版)が入荷しました
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最近入荷した本には、次のものがございます。暑苦しい本、だといえば、そうなのかもしれませんが、紹介したいと思います。
トロツキー『ロシア革命史』山西英一訳(角川文庫、1972年改版、原書は1932-33年の英語版)が入荷しました。訳書第1巻所収の山西英一「『ロシア革命史』を翻訳するまで』によれば、ロシア革命やその指導者トロツキーに関する書籍の邦訳者として著名になる山西は、上記のトロツキー『ロシア革命史』英語版が刊行された当時はロンドンに滞在しており、同書を発売と同時に購入して夢中になって読んだとのことです。トロツキー『ロシア革命史』については、現在はロシア語版からの藤井一行訳が岩波文庫から刊行されています。
それでは、英語版からの山西訳は価値がなくなったのか、といえば、決してそんなことはないと考えています。トロツキー『ロシア革命史』刊行当時の日本人の反応として、山西氏の同書翻訳経緯は把握しておくべきだと考えるからです。英語を介したロシア・ソ連史の受容は、ロシア語経由のそれと影響力は異なるでしょうし、あるいは別の知的系譜としてそれぞれ詳細に検討する必要があるのではないでしょうか。
なお、こちらのほうが有名かもしれませんが、山西氏は、アイザック・ドイッチャーのトロツキー伝3部作(英語)の翻訳者でもあります。原著者ドイッチャーは、1927年から1932年までポーランド共産党非主流派で活動し、同党から除名されイギリスに亡命したユダヤ人であり、イギリス時代は、長大なソ連史をものしたE・H・カーとの、活発な論戦を含めた交流がありました。カー『歴史とは何か』も、ドイッチャーとの論戦や英語圏におけるソ連史研究をめぐる時代状況を意識して読まれるべき書物です。
▲ドイッチャー『トロツキー 追放された預言者 1929-1940』第3章「歴史家としての革命家」。過去の自分を呼び出して現在で闘うという、何やらドラマチックな生き様を感じました。
ロシア革命の指導者トロツキーが、自らを第三者として扱ってロシア革命の歴史を描きました。その二つのトロツキーを評伝作家のドイッチャーが論じ、英語で刊行された『ロシア革命史』や、トロツキー伝を山西訳で私たちは受け取る、といったような経路があるわけです。こうした英語を介したロシア・ソ連史受容の経緯をみていくとで、戦時日本の状況や、敗戦を受けた転換についての理解を深める手がかりがあるかもしれません。この点は日本の社会主義・共産主義思想の展開を考える上で意外な重要性を持っていると思われ、あらためて振り返ってみたいとして浮かび上がってきました。そのような見込みを立ててみると、トロツキー→ドイッチャー→山西英一→藤井一行と順に読んでいくことが、何やら重要な気がしてきませんか。
ややマニアックな話をしてしまいましたが、日本におけるロシア・ソ連史の伝統にふれる機会に多少はなれば幸いです。
小野坂
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