吉川光治『徳川封建経済の貨幣的機構』(法政大学出版局、1992年)を紹介します
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くまねこ堂では、古銭の取り扱いをしています。その関連で、最近目にした本を紹介したいと思います。
吉川光治『徳川封建経済の貨幣的機構』(法政大学出版局、1992年)です。同書刊行時の奥付によりますと、著者の吉川氏は、青山学院大学経済学部教授で、前著は『イギリス金本位制の歴史と理論』(勁草書房、1970)と、日本史の専門家ではなく経済学者であることがわかります。たしかに、貨幣研究は、狭い意味での歴史研究の手法では扱いきれず、経済の専門家の知見が求められることがあります。同書冒頭でも、イギリスの経済学者J・M・ケインズの『一般理論』(『雇用・利子および貨幣の一般理論』、1936年)への言及から始まるなど、一般に想像される江戸時代研究の書籍とは異なった導入となっています。
ところで貨幣、お金とは何でしょうか。お金とは何か、といきなり質問されたら、どう答えればよいのでしょうか。たとえば、金属のお金よりも紙切れのお金ほうが価値が大きいのはなぜでしょうか。
とりあえずは、お金はそれ自体で価値があるものではなく、みんなが認めている仕組みの中で取引されているから価値がある、と考えておきましょう。
そうなると、みんなが認めるお金の仕組みは、天地創造から現在まで不変だったのでしょうか。そうではないだろう、と気づくのは容易です。何もお金の歴史に詳しくなくとも、日本のお金の場合、江戸時代の単位は「両」で、明治維新後に「円」という単位に変わったというのは周知のことです。比較の仕方にもよりますが、お金の常識は、時代や場所によって大きく違うのです(もちろん、微差が重大な違いを生む場合もあります)。
ケインズの経済学は、紙幣、お札が金(ゴールド)と交換可能だ、というお約束の下でお金の価値が保証されていた当時の常識に異を唱えるものでした。経済学の最良の部分には、こうした「みんながそうだと思っている」、だれも疑わない常識に盾突く力があります。その意味で、『イギリス金本位制の歴史と理論』の著者でイギリス経済が専門の吉川氏が、日本の江戸時代の経済、とくに貨幣制度についての研究をまとめられたのは、大変興味深いことです。
近年の日本経済に関する議論でも、今後の経済制度や社会の仕組みを考えるにあたって、江戸時代の相互扶助の歴史(たとえば、頼母子講など)が注目されています(※)。
(※)一例として、広井良典『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)。
歴史学と経済学、日本史と世界史の交点に位置づけ得る貨幣研究の可能性は、今日一層高まっています。古銭を眺めながら、貨幣研究の一端を紹介しようと考え、今回の投稿となりました。引き続き、この分野について勉強していきたいと思っています。
小野坂
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