大人になっても絵本は面白いー磯みゆき:作 宇野亞喜良:絵「もりでうまれたおんなのこ」紹介ー
もう9月も終わりです。涼しくなりました。
「風の音にぞおどろかれぬる」ですね。
本日は以下の絵本を紹介したいと思います。
磯みゆき:作 宇野亞喜良:絵「もりでうまれたおんなのこ」(ポプラ社・2007年)です。
親や周囲の人間から期待される「いいこ」でいようとしていた女の子が、親から離れ、熊と生活するうちに、自分の心を大事にして生きていけるようになる、というお話です。
「あなたは いいこ」
おかあさんが いいました。
「だから わたしは あなたが すき」(2ページ)
このようなこと、誰しも言われたことがあるのではないでしょうか。幼少期を思い出し、苦しくなる言葉です。
この場面の絵、母親は手だけ描かれています。
母親の姿形があるより、手だけがある方が怖く、その存在の重さが感じられます。母親に女の子が支配されていることがよくわかります。
「いいこ」を期待する母親の許を去り、女の子は熊と過ごすようになります。熊の言葉は以下です。
「ねえ、くまさん、わたしは いいこ?」
くまは わらって いいました。
「いいこか わるいこかなんて どうでも いい。ぼくは きみのことを だいすきで、
ふたりで いっしょに いるだけで うれしいんだ」(38ページ)
こんなことを言ってくれる人間は現実にはいません。熊だから相手の全てを受け入れ、好きでいられるのでしょう。物語の終盤、このような会話があり、女の子が幸福である結末にひとまず安堵します。
女の子が親と離れ、他の人間とも関わらずに生きていくのかもしれないのは、やや気がかりではありますが。
なぜこの物語に父親は出てこないのか?なぜ熊は一人暮らしをしていたのか?なぜ熊は女の子と一緒に生きていこうと思ったのか?他の動物たちはそれをどう思っているのか?
絵本は文章が少ないですから、余白があります。さらさらと読んだあとに、いろいろなことが気になってしまうから、大人になっても絵本は楽しいです。何度も読みたくなります。
文章に加え、この本は絵も魅力的です。
はなも、そして ちょうちょも ことりも、みんな、わらっているようでした。(32ページ)
この文章に添えられた絵が以下です。
蝶や鳥の腹には人間の顔が描かれています。そして、その顔は笑っていないのです。
「わらっているようでした」と語られるものの、それあくまで女の子視点からのものなのかもしれない。彼女の周囲は、決して彼女に好意的ではないのかもしれない。絵が添えられることで、物語はそのような不吉を纏います。
また、女の子が幸せになる物語であるはずなのに、描かれる女の子の口角は一度も上がらないのです。隣にいる熊は、こんなににっこりしているのに。
絵本の最後の絵もこのようです。
彼女は抑圧から真実に開放されたのでしょうか。彼女の負った傷は、なかなか深いものなのかもしれない。そして、自分を受け入れてくれる存在と二人で生きていくことは、素晴らしいことだけど、いつか、自分を苦しめる者とも向きわなければならない。世の中から逃げて、隔絶された世界で、好きな人と生きていくことはできないのです。
彼女の上がらない口角から思いを巡らし、自分は世界の厳しさを感じました。
以上、自分の感想を述べました。自分が何とも卑屈な読みをしたことに驚きました。でも、絵本は、絵と少ない文章によって構成されているため、読み手が想像を膨らませる部分が大きいということは、言えるでしょう。自分は暗い方へ思考が向かってしまいましたが、この本をもっと愉快な物語として読むこともできるはずです。
大人になっても絵本は面白いですよ。そのわくわくが伝わればと思いつつ書いた以上の感想文で、本日のブログといたします。
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