昭和11年に見た未来―須之内文雄著「百年後の世界」ご紹介―

ハロウィンですね。いろいろなものがハロウィン仕様になっていて驚きます。また11月になったらそれが、クリスマス仕様になるのでしょう。移ろいの秋。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

本日は以下の書籍をご紹介します。

須之内文雄著「百年後の世界」(昭和11年発行、実業之日本社)です。

須之内文雄 百年後の世界
須之内文雄 百年後の世界

須之内文雄 百年後の世界

発行年の昭和11年(1936年)は2・26事件のあった年です。不穏の中で100年に思いを馳せる本なのですね。
自序で著者須之内は、この書籍で展開される100年後の予想は、科学技術的知識に基づいて書かれているとしています。そして以下のようにも述べています。

…我が国が新時代に於ける世界の最雄者たらんには、最近に於ける科学文明の諸知識を全国民のものとしなくてはならないことは明らかである。本書は、これら科学技術界の現状及び将来を、平易に興味深く解説するに勉めたものであり、我が民族一般が斯界への興味を新にし、進路開拓に対する何等らかの力となり得れば幸である。(7p)

科学知識が個人のためでなく、日本国が世界の中枢でいるために必要だと述べているのが、時代を感じさせます。一人一人は全て国に回収されていってしまうこと、悲しさがあります。

本文も少しのぞいてみましょう。

第五「電気其他動力の諸問題」には、太陽光発電のことが描かれています。

最近太陽熱利用の二三の研究を見るに、受熱面、通水層、水底板の三層から構成されたものを、二重板底と硝子張りの保温容器の中にをさめた、一つの集熱器を陽当り面に設置し、上端から通水した水を加熱せしめて、下端から熱い湯となつて流れしめ、保温タンクに導いて貯蔵する方法がある。(172p)

これが実用化されれば、太陽光エネルギーによる温水供給や電力供給ができるだろうとしています。(173p)

この時代にも太陽光発電の研究がされてたんですね。驚きました。

第七「百年後の戦争」という章もあります。少し引用してみます。

更に、或る軍事予言者は、タンクに人間が乗らずに、遠方から無電式によて統御する機械戦争を説く者がある。これによれば、タンクの前進後退、飛降、機関銃の発射、その他すべて遠方の安全地帯から統御し、人間のゐない占領、進退が行はれるわけである。(222p)

この記述に関しては、現代の無人ドローンによる爆撃など、実現している部分も多い気がします。

この章のまとめは、なかなか重いものに自分は思いました。以下です。

今後の戦争が科学兵器の戦争であることは、屡々述べて来たが、一方、各国の科学技術の研究による製造工業、その他の産業の進歩競争は、即ち平和時の戦争であり、一朝事ある時は、これらの各種工業が濃淡の差はあれ、ことごとく戦争に参加する形となる。即ち、現在の国家に於ける科学も技術も、一時的でなく恒久的に、戦争と結びつけられてゐるといつても過言ではない。(223p)

人類より戦争の絶滅を期すべきは、もちろん、我々の理想に相違ないが、争ひの絶えざるは生物世界の歴史であり、また競争あればこそ努力向上があり、進歩があるともいひ得る。要は、この競争を出来得る限り平和手段たらしむることである。戦争を目的とした兵器研究の諸結果も、これを一歩転換利用すれば、人類の福利増進の施設として利用できるものも多いのであり、戦争の進歩と平和との間は、実は紙一重の問題であることは、国民の常に留意し置くべき事項である。(224-225p)

「平和利用」という考えは当時からあったのでしょうか。著者は、科学技術は、平時でさえ、常にいつか起こる戦争と結びついている。そう述べる一方で、戦争のための研究も人類の福利のために使える、としています。「戦争の進歩と平和との間は、実は紙一重」という、その紙一重の危うさがよくわかります。
そして現在でも、その状況は変わっていないのでしょう。科学技術が易々と戦争と結びつくこと、実感すること多々です。普段の科学の面白さ、楽しさ、その夢は、裏返せば戦争の悲惨になるのだということ、しかしそれは表立っては言われないこと、その怖さ。
この書籍は、科学技術的知識によって書かれていると自序で著者は述べておりました。100年後は戦争などなく平和なのだという夢物語は、彼は書きませんでした。「戦争の進歩と平和との間は、実は紙一重」なのだと言いました。その重さを現在の我々も感じ取るべきでしょう。

戻って、目次を見ると「婦人問題と流行」「天体への遠征計画」「百年後のオリンピック」「絶対安全な航空機」など、様々目を引かれる項目があります。当時、著者は何を100年後に見たのか。時勢もあるかもしれず、著者がどれくらい自分の思うままに書いたのかはわかりませんが、この本は頭からじっくり読んでみたくなりました。現代に実現したこと、しなかったこと、その原因を考えてみるなら、学ぶことがたくさんあるように思います。

本日は須之内文雄著「百年後の世界」(昭和11年発行、実業之日本社)をご紹介しました。

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