買取事例
新宿区弁天町にてお譲りいただきました!:DVD、CD、懐かしの歌謡曲、コミックセット、文学、田中小実昌、新刊書
本日は講談社学術文庫「英国人写真家の見た明治日本」(ハーバート・G・ポンティング著 長岡祥三訳)をご紹介したいと思います!
本書はロンドンで刊行された「In Lotus-Land Japan」(1910年刊)を原著としたもので、この題を訳すと「この世の楽園・日本」となるそうです。
著者のH・G・ポンティングがアジア各国の撮影旅行に出で立ち、日本に来日したのが明治35年頃のことだそうです。
当時の日本は日露戦争の前、日清戦争の戦勝国となり世界の先進国として大きく発展を遂げつつある時代ですが、本書に掲載された多くのポンティングが記録した日本各地の様子は、西洋文化に侵されることのない、繊細で美しい日本人の姿ばかりで驚いてしまいます!
日本人ながらも明治時代の日本人の写真を見る想いは、当時の西洋からの旅行者と同じ感覚なんだろうと思います。
特に京都を訪れた際の項には「私は方々の国を何年も旅行したが、今まで見た中でも、最も優美で心を奪われる都として思い浮かべるのは、この京都である」と記されており、写真の数々もまるで西洋名画を観ているような美しさに心が奪われてしまいそうです。
一方、日本に来日して驚きの連続が記録してある書籍もあり、こちらはこちらでオススメです!
「ニッポン仰天日記」小学館(ゴードンスミス著 荒俣宏訳)。
こちらは写真キャプションがなかなか振るっており、獅子舞の写真には「わけのわからないパフォーマンスだ」、角力とりを「レスラー」と記してあり、外国人ならではの視点に思わず感心してしまいます(笑)
本書は手彩色やカラーの図録が満載で学術的な部分以外でも、気軽に明治時代の日本を楽しめることができます。
教科書で学んだことに留まらず、当時の庶民の姿を写真には得るものが多く、とても楽しく勉強になります!
byこばちゃん
本日は即日出張買取にて市川市富浜まで伺いました!松田聖子、中島みゆき、山口百恵、吉田拓郎、山下達郎、80年代歌謡曲、ゴールデン☆ベスト、最新CDなどを買受け
漫才ブームの昨今、多くの漫才師やお笑いタレントが水泡のように生まれ出でては煙の如く消えていくという状況が繰り返されていますね。
私も珍しく年末年始は勉強のために漫才のテレビ番組を観ておりましたが、ちょっと私の考えている漫才とは違ったものが演じられ、またウケていたので、時代に取り残された感じを受けました(涙)
やはり私などは、漫才といえばコロムビアトップ・ライトさん、そして上方漫才のいとし・こいしさんなどが脳裏に浮かびます(笑)
そんな、往年の名漫才コンビいとし・こいしさんの生涯を追ったのが「いとしこいし 漫才の世界」(岩波書店 2004年)で、本文に出て来るお二人の写真の若いこと!実の兄弟ということは知られていますが、まさか昭和12年にデビューということは存じ上げませんでした。
長い間、漫才師をされていたのにも関わらず「ドサのにおい」がなく、晩年は無駄な部分がそぎ落とされた理想的な面白い漫才をされていたこと、多くの方が覚えていらっしゃると思います。
そして、そんなおふたりが足跡を残された上方漫才の歴史をたどったのが「昭和上方漫才」(朝日新聞社 2000年)で、なんと人間国宝の故・桂米朝と上岡龍太郎さんによる著書!
このお名前をみるだけで、信頼のできる内容だなぁと思わせるところがありますね。
こちらではエンタツ・アチャコから、海原千里・万里までの漫才師・お笑い芸人が対談形式で網羅されており、写真を見るだけでもあの抱腹絶倒の舞台を思い出さずにはいられません!
昭和には素晴らしい芸人さんがたくさんおられますが、お笑い好きの方に是非オススメしたいのが「海原お浜・小浜」「ちゃっきり娘」の二組です!!!
海原お浜・小浜さんは海原千里・万里(上沼恵美子さん)の師匠で、この時代の女流漫才のなかでは純粋なしゃべくり漫才師として一時代を築いた名人です。
鋭い喋り口でネタを披露するお二人に下品さはなく、2006年には上方演芸を支えた芸人を顕彰するために行われた「上方演芸の殿堂」に殿堂入りを果たし、関西では広く知られた存在であることがうかがい知れます。
また、しゃべくり漫才のほかに、昭和時代に全盛を極めたのが楽器を使用した漫才グループで、関東人に馴染み深いといえば、かしまし娘を挙げることができますが、同時代の関西で同格の知名度を誇っていたグループに「ちゃっきり娘」がいらっしゃいます。
ちゃっきり娘は、大きな声に独特なマスク、歌が堪能な秋美さんが笑いの中心となって、これでもかと関西色の濃い漫才を繰り広げます。
スマートであっさりした東京漫才とは裏腹に、こってりとしてローカル色が魅力の上方漫才。YouTubeで上方漫才に関する映像をみてみますと、1970~80年代くらいまで、義太夫を替え歌にして笑いを取るグループ・三人奴、浪曲を効果的に使用するタイヘイトリオなど、まるで戦前!?と思われるような前時代的なコアな演芸が息づいていたことに驚愕いたします。
笑いを志す方、笑いがお好きな方は、「温故知新」の精神で、是非とも漫才の足跡を知っていただけると、今のお笑いが更に楽しいものになるかも知れませんね!
byこばちゃん
和本、図鑑、文庫、地質学、考古学、古生物学、趣味の本をお譲受しました@荒川区
もうすぐバレンタインですね
この時期はおいしいチョコのお菓子がたくさんデパ地下に売っていて、ついつい手が伸びてしまいます。
手作りチョコ派の方もいらっしゃいますか?トッピングやラッピングの作業はとっても楽しいですよね~
くまねこ堂にもおいしい食べ物の本が入荷いたしました!
ブルーベリーの本がいっぱい!!!
ブルーベリー大図鑑〔品種読本〕写真解説 渡辺順司 より抜粋
こちらの本はブルーベリーの品種112種類ひとつひとつの解説を写真付きで見ることができますブルーベリーだけでこんな種類があるとは!
成長過程の写真も面白いですね。
お花の時のブルーベリー、スズランみたいで可愛いです
こちらも同じ大図鑑に記載があったのですが、、
”品種改良によっては素人の鉢植え栽培でも、500円玉サイズの大粒ブルーベリーを収穫することができる”とのこと!(しかも写真付きです!)
500円玉サイズのブルーベリー、なんて、、なんて、贅沢なんでしょう
ああ~なんだか季節も合わさって、ブルーベリー入りのチョコが食べたくなってきてしまいました
かこさん
中央区の企業様(銀座のリピーター様)に発行されて1年以内のビジネス書、専門書、音楽ライブDVDをお譲りうけいたしました
大学教授さまのご蔵書だった哲学・思想分野の人文書を、棚にどんどん差しております。
ガストン・バシュラール の著書は再々入荷だったような(‘◇’)ゞ
こういった専門書や学術書をくまねこ堂では高く評価しております。
ご整理のご依頼、お待ちしています!
モモコ
レコード(60’sROCK)、ROCKバンドのコンサートパンフ、グランドセイコー、鉄道模型(Nゲージ)、車・バイクのカタログ、世界の名著、日本の名著をお譲りいただきました:市川市八幡
本日は「戯曲 黒蜥蜴」(三島由紀夫 牧羊社 1969)をご紹介したいと思います!
今でもコアなファンが多い三島由紀夫さんですが、この「黒蜥蜴」は江戸川乱歩の作品を三島が戯曲として書き直したもので、丸山明宏(現・美輪明宏)さんが女盗賊を演じたことで有名ですね。
当初は日本を代表する女優の初代水谷八重子さんによって演じられたそうですが失敗に終わり、三島由紀夫さんが丸山明宏さんをモデルとして戯曲に書き直し舞台で上演。そして大成功をおさめたと、どこかで読んだことがあります。
見てください、この三島ワールド、丸山明宏ワールド全開の「黒蜥蜴」のフォント!
なんと大正から昭和初期に一時代を築いた挿絵画家の蕗谷虹児氏がデザインしたものだそうです。中身も1920年代に発売された詩集のような作りになっており、60~70‘sエログロのクラッシックな世界が広がります。
更に、特に使用されている旧文体が雰囲気を盛り上げてくれます!
江戸川乱歩、三島由紀夫、美輪明宏、蕗谷虹児というそれぞれに根強いファンを持つ人々が関わっていることから、この「黒蜥蜴」は人気の高い一冊になっております。
実は、この「黒蜥蜴」は映画化もされており、もちろん主演は丸山明宏さん、そして映画も終盤に差し掛かろうとしている場面、人間標本の役として三島本人が出演しているという珍品なので、ご興味のあるかたにはオススメです!
くまねこ堂では、文豪の初版本、サイン本、直筆原稿なども積極的に買い取りを行っております。
byこばちゃん
杉並区桃井にて、 岩波文庫、講談社学術文庫、皇室関係、名曲アルバムDVD、DVD-BOX、童謡CDを買い受け
本日は、人間の記録シリーズより「三浦環」「藤原義江」をご紹介したいと思います!
今では日本人オペラ歌手が多く登場し、海外留学も当然のことのように行われる時代となりましたが、日本オペラ界の歴史を遡った時に決して避けて通れないのが三浦環さんと藤原義江さんの存在です。
三浦環さんは明治30年代より東京音楽学校でまなび(現・東京芸術大学)楽壇で活躍後、プッチーニ作曲のオペラ「お蝶夫人」の主役で世界中に名前を轟かせた、日本人の国際歌手第一号といえる方です。環女史の舞台を観たプッチーニは、手放しで称賛し、彼女こそ自分が思い描いたバタフライだ、というようなことを語ったとされております。
環女史は昭和21年に亡くなりましたが、それまでは諸外国を公演してまわり、生涯で「お蝶夫人」を2000回以上も上演したという記録も残されており、まさに日本初の「歌姫」であることは間違いありません。
かの李香蘭も環女史の教えを受けたひとりで、また長崎の観光名所であるグラバー園には「三浦環像」も設置されているほど。
天真爛漫な人柄も愛された理由のひとつで、一時帰国した際に真っ赤なリボンを頭につけて振袖を着て銀座を散歩して、周囲をアッと驚かせたという話は印象的です。
そして絶対的な存在である三浦環さんと共に、日本オペラ史に最も影響を与えた男性歌手は?といえば、なにはさておき藤原義江さんの名前が挙がるのではないでしょうか?
藤原義江さんこそ、現在の日本オペラ界を背負って立つ藤原歌劇団の創設者であります!
日本人の母とスコットランド人の父を持つハーフで、当初は時代劇を専門とする劇団の一員だったところ、浅草オペラ歌手の田谷力三さんの歌声に衝撃を受けて大正7年に浅草からデビュー致しました。
その後、イタリアへ留学したことによって実力をつけて、現地の新聞には彼の二枚目ぶりが話題となり「東洋のバレンチノ」とまで称されていたそうです。
藤原義江さんも人柄の良さから多くの方に愛され、あだ名は「アニキ」。藤原義江さんと親交のあった方々にお話しを伺ったことがありますが、お高いところなど全くなく気さくで優しい方だったということです。
お二人の共通している部分は、残した足跡も重要ではありますが、生前にどれだけ多くの人々に喜びを与え、そして愛され親しまれたかという点ではないでしょうか?
これらの人々が歴史を作り上げたからこそ、今の音楽界があることを忘れないでいきたいですね。
byこばちゃん
大学教授様よりお譲りいただきました!:クラシックCD、70年代歌謡曲CD、スピードラーニング、英会話教材、中世史、ヨーロッパ史、歴史、幕末・明治本、岩波文庫、近現代史、学術書、講談社学術文庫
先日は絶版漫画を中心に買い取りをさせていただきました!
その中にはつげ義春さんの作品も多く含まれており、ガロ系漫画の定番作品「無能の人」もございました!
「無能の人」は骨董好きな方にはオススメしたい漫画で、つげ義春さん本人がモデルと思われる男性が、河原で鑑賞石屋をやったり、友人のせどり師や鳥師をテーマにした作品、またクラシックカメラの通信販売をする話など、商売に関する物語が満載ですが、どの作品もハッピーエンドでは終わらず
「父ちゃん、虫けらってどんな虫?」
「つまり世の中の何の役にも立たぬ…うん?誰がそんな話した」
「母ちゃんがね、父ちゃんは虫けらだって」
という息子とのやり取りで終わるという味わい深い締めくくりには、思わずしみじみしてしまいます。また私、個人的には「鳥師」の話、ラストシーンの鳥師が飛び立つ場面の絵になんともいえない恐怖感を覚え、幻想的な世界に心惹かれます。
また1500部限定で1969年に刊行された「つげ義春初期短篇集」(幻燈社)もあり、扉の肖像写真の部分には署名も入っておりました!
つげ義春さんも若いです!!!
つげさんは昭和12年のお生まれなので現在81歳、水木しげるさんのアシスタントや貸本漫画を手がけたのち、創刊当時の漫画雑誌「ガロ」に掲載された「ねじ式」で一躍スター漫画家となり、その前衛的な作風は世間に一石を投じたことは有名ですね。
そんな、超ベテラン漫画家のつげ義春さんですが昨年、日本漫画家協会賞を受賞されたそうで話題にもなりましたね。
今では作品を発表されませんが、ファンの一人として、ぜひ負担にならない程度に新作を発表していただけたら嬉しいなぁと思っております!
byこばちゃん
埼玉県川越市にて、物理学、数学、理工書、学術書、専門書、哲学、映画、サブカル本の買い取りでご用命を賜りました
本日紹介させていただきますのは、ディック・ブルーナの関連書籍です。
そう、かの有名な「ミッフィー」の生みの親です!
ディック・ブルーナは1927年生まれのオランダ出身の絵本作家。
幼少期より画集を読み漁る中でオランダ絵画の巨匠・レンブラントやゴッホの作品に触れ、しだいにアーティストを志すようになったようです。
戦争の後、画家になることを決意しますが父と対立してしまいます。出版社の経営者である父は息子を後継者にしたかったんですね。
で、結局、出版社の後継者としてきちんと修行することを条件に画家の夢を追うことを許され、出版社の装丁家としてミステリー小説などの表紙デザインを制作し名声と経験を積んでいきました。父の会社をたいそう嫌っていたようですが、ここで腐らなかったのはエラい。
そして1955年、ブルーナは息子のためにずんぐりむっくりのウサギを描きます。
うさぎの名は「ナインチェ」。後に「うさこちゃん」「ミッフィー」と呼ばれるキャラクターの誕生です。
以降、独立したブルーナは福祉関係のポスターやデザインを手掛け、オランダを代表するデザイナーとなっていったのでした。
実はミッフィー、年を経るごとに微妙にマイナーチェンジされてたりします。
耳が丸くなったり、目と口のバランスが変わったり、線が微妙に太くなったり…。
でもどの時代のミッフィーも、手作りのやさしさと完璧に決まったバランスは外さずに兼ね備えています。
ファインアートとデザインそれぞれのセンスが融合したキャラクター、それがミッフィーなんですね。
そんなミッフィーも2015年に誕生60周年を迎え、日本の各地で巡回展が行われました。
大人も子供も、おねーさんにも愛されるミッフィー。
これからも、世界に子供がいるかぎり永遠に愛され続けることでしょう。
フジタン
実用書、ビジネス書、DVD、落語CD、クラシックCD、コミックセットをお譲りいただきました:千葉県市川市市川&松戸市上矢切
本日は買取品の中から、CD「越路吹雪トリビュートアルバム サントワマミー*宝塚大劇場で歌う」をご紹介したいと思います。
何故このタイミングで越路吹雪(こしじ・ふぶき)さんかと申しますと、もうお分かりかと思いますが…テレビ朝日で放送される新たなドラマが「越路吹雪物語」と決定し、放送が開始されたからでございます!
帯ドラマ劇場『越路吹雪物語』|テレビ朝日
先日には梅田芸術劇場にて越路吹雪さんを偲ぶコンサートも開催されて大盛況だったそうです!!
出演者は宝塚歌劇OGの面々で、なんとツレちゃん(鳳蘭さん)が出演されたとのこと。
実をいいますと私は長年のコーちゃん(越路吹雪さんの愛称)および宝塚歌劇のファンでございますので、是非とも観覧したかったのですが、なにしろ大阪は遠くて…断念せざるを得ませんでした。。
昨年はコーちゃんの没後35年記念コンサートが日生劇場で開催されましたが、大変感動的なコンサートで、私がビックリしたのは出演者として名前を連ねておられなかった雪村いづみさんが突如として舞台に登場し「愛の讃歌」を歌われたこと。涙涙の…本当に素晴らしいコンサートでございました。
…と、まぁ節目節目でコーちゃんのリスペクトショーが行われているわけで、いかに偉大な存在だったかということを再認識する訳でございます。
さて、本日ご紹介させていただきますCDは1999年9月に越路吹雪・没後20年&宝塚歌劇85周年を記念して発売されたもので、disc1が宝塚OGによるカバー集、disc2はコーちゃんのライブ実況録音盤になります。
なんとライナーでは岩谷時子先生が筆を執られております!
カバーをされた方はと言いますと、麻実れいさん、大浦みずきさん、杜けあきさん、安寿ミラさん、一路真輝さん、稔幸さん、姿月あさとさんという歴代のトップスターが揃った豪華なメンバーが揃っています。
私個人的には汀夏子さん、瀬戸内美八さんのような型にはまらないダイナミックなスターが大好きなのですが、麻実れいさんのような絵にかいたような男装の麗人も忘れることはできません。
そして今はこの世にいらっしゃらない大浦みずきさんもCDに参加されており、また人生を淋しく歌った「ケ・サラ」を歌われていることも偶然だったのか、今となっては胸をうたれます。
越路吹雪さんは大正13年、新潟県の出身。愛称のコーちゃんは「越路」からではなく、本名の河野美保子からつけられたものでした。
昭和12年に初舞台を踏み、終戦直後の宝塚歌劇黄金時代を支えた大スターで、退団後はミュージカル女優、シャンソン歌手という、今まで日本にはなかったジャンルを切り開き、日本のショービジネス界を支える伝説的存在となりましたが、昭和55年に56歳の若さでこの世を去りました。
越路さんがおられなければ、日本におけるミュージカルやシャンソンの普及が遅れていたのかと思うと不思議な思いがいたしますね。
NHKの越路吹雪物語の放送をきっかけに、今も色あせることのない越路吹雪さんの歌声を楽しんでみてはいかがでしょうか?
こばちゃん
杉並区西荻窪のお客様より、学術書、美術書、文芸書をお譲りいただきました
お客様からサミュエル・ベケットの『モロイ』をお譲りいただきました。
ベケットと言えば、現代演劇に最大の影響を与えた、戯曲『ゴドーを待ちながら』で有名ですが、1952年に出されたこの戯曲と並行しながら書かれた小説が、『モロイ』『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』の三部作です。
わたしは数年前に三部作最後の『名づけえぬもの』を最初に読み始めたのですが、まったく読めず、それこそ15ページも進まずに読むのを断念したのを覚えています。文字は平明でまるで内容が難しいわけでもないのに歯が立たなかったのは、今まで自分が考えていた「小説はこういうものである」とはまるで無縁な地点で書かれていたからでしょう。わたしは不思議と読めないことが嬉しかったのを覚えています。今のわたしでは捉えられない、異様ななにかがそこにはある、ということだけはわかったからです。
モロイはこう始まります。
私は母の寝室にいる。今ではそこで生活しているのは私だ。どんなふうにしてここまでやってきたかはわからない。救急車かもしれない、なにか乗り物で来たには違いない。だれかが助けてくれた。一人では来られなかったろう。毎週やってくるあの男、私がここにいるのはあの男のおかげかもしれない。
ゴドーを待ちながらは「この三部作を書く苦闘の息抜き」のために書いたとベケット自身は語っています。『モロイ』では、主人公はベッドで目覚めて町の中を移動していきながら話が進んでいき、続編の『マロウンは死ぬ』では、ある部屋の中でベッドに寝たまま歩けない男の人称で話が展開します。そして最後の『名づけえぬもの』では、どこにいるのか、そもそも人間なのか、目や口はあるのかすらわからない暗い場所の中にいるなにかが最後までしゃべり続けます。いずれにせよ、前述のモロイの冒頭のように、自分がだれで、なにをしているのか、なぜここにいるのかも未明の状態から、小説は進んでいきます。
ベケットは三部作を書きながら、語り手の動きを剥ぎ、物語ることを剥ぎ、母国語でない言葉で書いて滑らかさを剥ぎ、空間を剥ぎ、風景を剥ぎ、未明の場所で、それでも続けていく小説を書きました。読んでいると熟練の潜水夫が、まだ潜れる、まだ潜れる!と息継ぎをしないままひたすら潜り続けているような印象をわたしは受けます。そして「もう続けられない、続けよう」と最後のページに書いて、『名づけえぬもの』は終わります。
正直、何度も読みましたが、まだ一度も読めた気はしていませんし、最後までページをめくっても未消化のまま整理できず、しばらくするとまた読みたくなって本を開くというのをここ何年も繰り返しています。しかし整理してしまったらそれはベケットの文章とはまるで別のものになってしまうでしょう。確かなのはベケットを読んで以降、ストーリーやメッセージ先行の小説をわたしは一切読めなくなってしまいました。結論ありきのそれらが非常に窮屈で息苦しく、背中がこわばってしまうのです。
もし、今ある小説に飽きていらっしゃる方がいれば、まるで別の小説の可能性を押し広げていったベケットの三部作はいかがでしょうか?「いったい何の話をしているのかわからない、しかしわからないのに面白い」という喜びに出会える小説です。
タテ