「並河靖之 明治七宝の誘惑-透明な黒の感性」展に行ってきました
カテゴリー/レジャー/くまねこ堂通信東京都庭園美術館で開催中の、
「並河靖之 七宝 明治七宝の誘惑-透明な黒の感性」展に行って参りました!
明治時代、七宝は輸出用美術工芸として人気を博しました。
その中でも並河靖之(1845-1927)は、繊細な有線七宝により
頂点を極めた七宝家です。
国内外の博覧会で成功を収め、工房には外国からの文化人が多数訪れ、
「KYOTO NAMIKAWA」ブランドは海外でも高い評価を得ました。
1896年には帝室技芸員に任命されています。
並河靖之(1845-1927)
(後ろの屏風は、国内外の博覧会で受賞した賞状を貼り交ぜてあるのだそうです。)
並河靖之の作品は、自分はいくつかの展覧会で少し見たことがあるのですが、
並河作品がこれだけ一堂に会した展覧会を見るのは初めてで、
楽しみにしておりました。
そして今回の展覧会は、じゅうぶん期待して行ったにもかかわらず
それ以上の素晴らしさで、
超絶的な技巧のみならず、余白を生かした優美な絵柄と色彩、
日本らしい花鳥風月の繊細な美しさなどに、
何度も感嘆のため息をもらしてしまいました。
いくつか写真を載せますが、気の遠くなるような技巧の細かさも、
並河独特の技法による釉薬の美しさも、
到底写真では表し得ませんので、実際に会場に足を運んでいただけることを
ただただ願うばかりです!(あと6日しかありませんけど!)
並河といえば、この黒!
この艶やかで気品あふれる深い黒色、
有線技法の図柄を引き立たせる地色の美しさが有名ですが、
近年の科学調査により、黒一色を使っているわけではなく
深い藍色と黒を重ねるなど、複数の色を使っていることが
判明したそうです。
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並河靖之「花桐蝶文大花瓶」明治後期-大正時代/並河靖之七宝記念館
緑の地色も素敵ですよね!
そして植線の太さを変えることにより葉の葉脈が表現されていたり、
花びらや枝にも繊細なグラデーションが施されていたり、
とにかく驚くよりほかない技の細かさです。
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下は、並河の七宝工房(多いときには40~50人ほどの職工たちを抱え、
集団で七宝作品の制作を行っていました)で実際に使われていた
釉薬見本だそうです。
一つの花瓶の中で、緑色だけで15色もの色を使い分けて
グラデーションを作り出していたのですね(驚)
ちなみに並河が使っていた釉薬は粉状で、現在使われている釉薬よりも
粒が細かいのだそうです。
だからあれほど美しい繊細な色彩が表現できたのでしょうね。
釉薬見本(桐花瓶用別口葉色ボカシ)
並河工場/1921(大正10)年9月16日/並河靖之七宝記念館
ちなみに庭園美術館内の「新館ギャラリー2」で、
現代の七宝家による並河の技術解説が実演とともに上映されており、
並河工房の卓越した職人技をわかりやすく知ることができ大変勉強になりました、
ご来館の際にはぜひとも忘れずに足をお運び下さい!
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今回の展覧会では下図も多数展示されており、
作品の制作過程を知る上で大変興味深かったです。
下図の時点で、すでに美しい世界が作り出されておりました。
色の指示も細かく指定されていてすごいです。
下の部分は口縁(器の口の部分)の色指定です、
こんなわずかな部分にもこれほどたくさん色が使われているのですね!
下図「ボーダー文様」並河工場画ノ部/明治時代/並河靖之七宝記念館
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京都並河の七宝はその大半が海外向けに制作・販売されていたために、
日本国内でに残されている作品はごくわずかである。
本作は、大阪住友家旧蔵の、日本国内に残された貴重な一点である。
並河家の芳名録には明治42(1909)年に住友家が並河邸を訪れて
複数の七宝を購入した記録が残されており、
同作がその際に購入されたものかどうかは定かではないものの、
当時の住友家の関心を伺うことができる。(図録より)
高さ15センチほどの小品ながら、
漆黒の並河ブラックも瀟洒な絵柄も美しく、
小さな小さな梅の花のグラデーションも見事で、印象に残った一品でした。
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それと今回の展覧会で興味深かったのが、
まだ初期の頃の並河作品も見ることができたことです。
初期作品は、まだ釉薬や彩色の技術も不十分で、
絵柄も「余白の美」に到達していなかったりと、
円熟期の並河作品とは印象がだいぶ違って驚きました。
武家出身の並河が明治維新後に七宝の世界に飛び込み、
知識や資材の無い中、懸命な試行錯誤と挫折の末に生み出した、
世界をも凌駕した驚異的な「京都並河」作品の数々。
その過程やドラマをも肌で感じることができ、非常に貴重な体験でありました。
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本日の参考文献:
「並河靖之 七宝 明治七宝の誘惑-透明な黒の感性」図録(定価2700円/税込)
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